ウェルスナビの柴山和久社長Photo:Kazutoshi Sumitomo

ウェルスナビは2018年11月、既存株主を引受先とした第三者割当増資および複数の金融機関からの融資により、計40億円の資金を調達した。2015年4月の創業から調達した資金の総額はこれで107億円に上る。代表取締役CEOの柴山和久氏は「もともと自分はリスクテイカーではない」と言う。起業当初は「ロボアドバイザー」という言葉も、「フィンテック」という言葉も知らなかった柴山氏はなぜ、リスクを取る決断をしたのだろう。

転機となったのは
マッキンゼーの合宿だった

 2015年4月、私はウェルスナビを立ち上げた。

 じつのところ、起業するとはまったく思っていなかった。もともといわゆるリスクテイカーというタイプではない。財務省を辞めたのも、深夜帰宅続きの官僚生活では妻との時間を十分に取れないと考えてのことだった。その後、入社したマッキンゼーでの仕事も、充実感を持って取り組んでいた。いつか起業しようと野望を持つタイプではなかったのだ。

 それなのになぜ、起業したのか。大げさな言い方になってしまうが、社会的使命を感じたからにほかならない。日本人の誰もが安心して利用できる資産運用サービスを、日本で作りたい。そう思って動き出したら、多くの方が手を差し伸べてくれ、気がつけば会社ができていたというのが実感だ。

 マッキンゼー時代、私は資産規模10兆円の機関投資家をサポートする仕事をしていた。与えられたミッションは、リーマンショックの教訓を踏まえ、リスク管理の水準を強化しつつ、世界クラスの資産運用の仕組みを構築することだった。

 アルゴリズムは単なる数式である。運用する額が10兆円でも、10億円でも、あるいは10万円でも、同じアルゴリズムを活用することができる。しかし、現実はそうなっておらず、限られた富裕層や莫大な資金を持つ機関投資家のみしか利用できない。なぜかといえば、プライベートバンカーの人件費やオフィス料、その他もろもろの経費がかかるからだ。

 しかし、テクノロジーの力を使えば、資産運用のサービスを、より多くの人に提供できるかもしれない。しかも、それを世界中で最も必要としているのは日本ではないか──。
 
 そんな思いを漠然と心に抱いていたある日、マッキンゼーでの幹部候補生合宿に参加した。この合宿では、「自分が何をやりたいのか、本当にマッキンゼーでコンサルタントをやっていきたいのか」ということを徹底的に問われる。そこで、私は「日本でオンラインのウェルスマネジメントの会社を立ち上げる」と宣言してしまった。