ミーハー気分で買っても失敗しない

 フェラーリの大好きな人がフェラーリの万年筆を買ってしまうのは、それが優れた万年筆だからではなく、あのマークが付いているから。もちろんフェラーリくらいになると、ライセンス品の品質にも厳しいチェックは入るのだろうが、適当にロゴを貼っているだけのブランドも、まあないではない。

 マーシャルのロゴが付いているヘッドフォンを買う人も、もちろんマーシャルのロゴが付いているから買うに違いない。しかし、楽器メーカーの場合、特に音に絡む製品はブランドの毀損に直結するので、適当にライセンスしてそれらしいものを市場に流しているわけではない。

マーシャル新ヘッドフォンは幅広い音楽が聴けるのでおすすめ

 たとえば、フェンダーは最近急にイヤフォンを売り始めたように思われているが、あれはナッシュビルのイヤフォンメーカーであるオーリソニックを買収して、そっくりブランドを移行したもの。マーシャルにしてもギターアンプ機能を内蔵しない、ただのBluetoothスピーカーを売っているが、質量と剛性のあるキャビネットにハイパワーのアンプというノーギミックな構成で、決して見た目とロゴだけの内容ではなかった。

 「安かろう悪かろう、たまに当たれば良かろう」というこの大Amazon時代において、オーディオに詳しくない人が、ミーハーな気分で買っても大きく失敗はしない。その点で、実は楽器メーカーのブランドには意味があるのではないかと、最近思うようになってきた。

マーシャル新ヘッドフォンは幅広い音楽が聴けるのでおすすめ

 すっかり前置きが長くなったが、今回はマーシャルのヘッドフォン「MAJOR III」を試してみた。これがシリーズ3代目。初代は2010年発売というから、すでにかなり年季の入ったシリーズだ。

 Bluetoothモデルが1万8230円、有線モデルが9690円(いずれもヨドバシドットコム価格)。ヘッドフォンとしての基本構造は一緒で、Bluetoothが付くか付かないかの差だけ。いずれも「コスパ最高!」みたいなことは連呼できない価格だが、まず見た目と質感は合格だ。

マーシャルの意匠で覆われたオンイヤー型

 ロゴと加飾パーツは、ご覧のとおりでマーシャルのアンプそのもの。ハウジング側面に大きなロゴ、丸いブラスのパーツはパネルやノブを想起させるし、レザーのシボ模様はキャビネット外装材のトーレックスを模したもの。誰もが一発で「あ、これはマーシャルね」と認知できる要素で成り立っている。

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 ヘッドフォンのタイプとしては、いわゆる「オンイヤー」型。イヤーパッドを耳の上に乗せるタイプだ。このタイプは小口径のドライバーを使って、コンパクトに設計できるから携帯に有利だ。ちなみにこのモデルのドライバーは40mm口径のダイナミック型で、ハウジングの折りたたみ機構も持っている。

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 パッドは厚そうに見えるが、レザー部分がハウジングを覆っているだけで、実際の厚みはこの半分程度しかない。だから沈み込むような装着感を期待するとガッカリだが、さほど側圧(イヤーパッドが耳を押し付ける強さ)は強くないので、装着感はごく普通。ただ、人によっては長時間の使用には向かないかもしれない。やはり耳が押されるので、痛みを感じる場合はある。

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 Bluetoothモデル、有線モデルのどちらにも有線接続用のカールコードが付属する。つまりBluetoothモデルも有線接続に対応するわけだ。このカールコードは、途中にマイクとマルチファンクションスイッチが付いたスマートフォン対応型で、スマートフォン側のプラグは4極端子、ヘッドフォン側は3極端子。どちらも3.5mmのミニプラグ仕様で、通話機能を使わないのであれば、一般的なステレオミニケーブルでも代用できる。

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BluetoothモデルはaptX対応

 Bluetoothモデルは、右ハウジングに充電用USBポートがあり、また充電用のUSBケーブルも付属する。内蔵バッテリーの充電時間は3時間で、最大30時間使用できるというのがメーカー発表値。これは十分短く、そして十分長い。ヘッドフォン本体に内蔵のマイクで通話や、Siriなどボイスアシスタントへの音声コマンドにも対応する。

 操作は左ハウジング後ろの丸いレバーで。一見するとボタンのようだが、プッシュやクリックと同時に、上下左右に倒す操作も受け付ける。これで電源のオン・オフ、ペアリング、音量、早送り・戻し、着信・終話、Siriのようなボイスアシスタントの呼び出しと、すべての操作をこなす。触った感触はカチッとしていて確実。扱いやすい。

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 Bluetoothの音声コーデックとしては、標準のSBC以外にaptXに対応。低遅延かつ、信号のドロップも比較的少ない。Bluetooth接続の方が、有線接続よりもハイエンド側が強調され、エッジの立った感じになる。これは有線接続に使ったiPad Pro(第2世代12.9インチ)のヘッドフォン出力と、このモデルに内蔵されたアンプを含むチップの差かもしれない。

有線とBluetoothの重量差ほぼナシ

 有線モデルはインピーダンスが34Ω、感度が99dB SPLと発表されている。インピーダンスは少し高めだが、スマートフォンで十分に駆動できる。

 Bluetoothモデルの180gに対して、基板やバッテリーがない有線モデルは162g(いずれもケーブルなし本体のみの実測値)と軽い……いや、たった28gの差しかないと言うべきか。いまどきのBluetoothヘッドフォンは軽い。

 ちなみに有線モデルに必須の付属カールコードの重さは、実測で26g。コードのいらないBluetoothモデルとの重量差は、たった2gになってしまう。重量による装着感の差はない。

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つないで音楽を「共有」

 2人で同じ音楽を「共有」するという、ラブい聴き方ができる仕掛けもある。

 下の画像の右が有線モデル、左がBluetoothモデル。有線モデルには左右ハウジングに1つずつ、3.5mmステレオ端子が付いている。これは、どちらか一方にプレイヤー、どちらか一方に別のヘッドフォンを接続するためで、2つの端子に入・出力の区別はない。

マーシャル新ヘッドフォンは幅広い音楽が聴けるのでおすすめ

 Bluetoothモデルも、1つの3.5mmステレオ端子が入・出力を兼ねる。Bluetoothモデルでおもしろいのは、3.5mm端子に入力があっても、Bluetoothの再生は中断されないこと。だから両方の音声がミックスして聞こえる。

 スマホで音楽を聴きながら、楽器をつないで鳴らすこともできるし、有線モデルを数珠つなぎにすれば(台数に限りはあるだろうが)オケを使ったバンドの練習にも使えそうだ。

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音のキャパシティー広し

 音の好みは千差万別だが、個人的に気に入っているのは、比較的側圧の強いオンイヤー型の割に、フラットな特性でまとめてあること。このタイプのヘッドフォンは「低音効いてるねー」という第一印象を持たせるためなのか、わかりやすく100Hzくらいの帯域が持ち上がったものが多いのだが、おかげで中高域の解像感が損なわれるばかりか、低域も不明瞭さばかりが気になって疲れる。

 その点、このモデルは小径ドライバーを近接した位置で鳴らせるという、オンイヤータイプのヘッドフォン本来の美点を生かしたチューニングになっている。まず中高域の解像感が良いし、ドロップチューニングのベースのような可聴周波数帯域の下限に近い低域もバッチリ出ている。その割に低域に飽和感がなく、ボトム全体の分離がいい。モダンな音楽を分析的に聴くのに不都合がないようにできていて、さすが楽器メーカーのブランドは違うぜ、と思う。

マーシャル新ヘッドフォンは幅広い音楽が聴けるのでおすすめ

 ハウジングに「Marshall」と書いてあるものだから、ギターサウンド中心のロック専用みたいなイメージだが、基本性能が高いので、オーケストラのようなダイナミックレンジの広いアコースティックサウンドもいい感じで再生する。見た目から「ラウドでバリバリ音、聴いてます」のような暗黙のアピールになってしまうのは避けられないが、実際に聴いている音楽はさだまささしだったりするような背徳感も味わえる。ともかくイメージに反してキャパシティーの広いヘッドフォンであることは念押ししておきたい。

四本 淑三(よつもと としみ)

北海道の建設会社で働く兼業テキストファイル製造業者。