旧来型の雇用主と従業員との契約は、企業が労働にふさわしい対価を払えるかどうかが主な焦点とされていた。だが、この考え方はもはや時代遅れである。筆者らの調査によると、実に9割の人々が、より意義を見出せる仕事に就けるなら、現在より給料が減ることも厭わないという結果が導かれた。従業員が仕事に求める価値観が大きく変化するなか、企業は何をすべきなのか。


 仕事に関する数々のインタビューをまとめた1974年刊行の画期的著書『仕事(ワーキング)!』の序文で、著者のスタッズ・ターケルは、米国の労働者の仕事に対するモチベーションを高めるうえで金銭的報酬と同等に重要なものとして、仕事の意義を挙げている。「[仕事とは]すなわち、日々の糧のみならず日々の意義を、金のみならず評価を、無感動ではなく驚きを探究することである」

 ターケルが話を聞いた中でも、心底仕事を楽しんでいる「幸福な一握り」の人々に、彼は共通の特質を見出した。自分の仕事に対して、金銭的報酬を超える意義を発見していたのだ。

 あれから40年以上が経ち、米国の働き手が、労働の見返りとして金銭的報酬より深い何かを求めているという主張は、多くの研究によって裏付けられている。現在、給与水準と仕事への満足度の間に強い関連性は見られない。対照的に、2005年以降、仕事を選択する際に、仕事の意義を重視する傾向は着実に強くなっている。HBR誌の2011年の記事では「意義は新しい報酬である」と主張している。

 それではなぜ、仕事の意義を高めるような企業文化の構築に向けて、具体的な行動を起こす企業が、これほど少ないのか。

 今日まで、ビジネスリーダーたちは、仕事に意義を見出すことが生産性向上につながるという所見を実践するのに欠かせない、2つの情報を持ち合わせていなかった。第1に、いかなるビジネスケースも、仕事の意義という抽象的概念を、いかに的確に金銭的価値に置き換えられるかで決定する。では、意義ある仕事とは実際、どのくらいの金銭的価値があるものなのか。約束された見返りを考えて、どの程度の投資が妥当なのか。第2に、いったいどうしたら、企業は仕事の意義を高めることができるのか。

 これらの疑問への解を導くために、リーダーの研修・コーチングを専門とするベターアップで筆者らのチームは、職場における孤独感に関する以前の研究の追跡調査を行うことにした。2018年11月6日に公開された「職場における意義と目的」白書は、仕事の意義について、2285人の米国人プロフェッショナルを調査したものだ。調査対象は26業種にわたり、給与額や企業規模が異なり、人種や年齢層もさまざまで、その背景も多種多様な働き手である。こうした働き手が、仕事の意義にいかに高い金銭的価値を見出しているかを示す結果は、筆者らを驚かせるものだった。

仕事に意義を感じることの金銭的な影響

 筆者らの最初の目標は、「意義ある仕事には金銭的価値がある」と信じる人が、どの程度いるかを把握することだった。そこでわかったのは、10人中9人が、より意義深い仕事ができるなら、生涯賃金の一部と交換しても構わないと思っていることだった。年齢や給与額に関係なく、金銭的な条件は悪くなっても意義ある仕事をしたいと考えているのだ。

 そうなると、次にくる重要な疑問はこれだ。仕事の意義は個々の働き手にとって、どれほどの価値があるのか。一貫して意義を感じられる仕事に就くことができるなら、現在の給与のうち、どの程度を手放す用意があるのか。

 筆者らは2000人を超す調査対象に、この質問をぶつけてみた。返ってきたのは、常に意義を感じられる仕事ならば、平均で将来の生涯賃金の23%と交換してもよい、という回答だった。

 この大きな数字は、ショーンが女性ビジネス会議で実施した、最近の調査結果を裏書きするものだ。出席者へのアンケートでは、80%の回答者が、いまの収入が20%上がるよりも、仕事での意義の発見や成功を後押ししてくれる上司を持つほうが望ましい、と答えているのである。米国人が収入の21%を住宅に費やしていることを考えると、この数字の大きさが理解できるだろう。

 意義ある仕事を持つことに、家を所有すること以上の資金を投じる用意がある事実を考えると、21世紀の「大事なものリスト」は更新されるべきかもしれない。「衣、食、住、そして意義ある仕事」という具合に。

 もう1つ、関連する疑問がある。意義ある仕事は、企業にとってどのくらい価値があるものなのか。

 筆者らが得た所見によると、仕事に大きな意義を見出している従業員は、1週間に1時間長く働き、取得する有給休暇の日数は年間で2日少ない。労働時間だけを見ても、仕事に意義を感じている従業員は、より多くの時間を仕事につぎ込むため、企業にとってプラスになるはずだ。

 さらに、より重要なのは、意義を感じながら働くと、仕事への満足度が高まる点だ。仕事への満足度が生産性向上と相関することは、よく知られている。確立されている満足感と生産性の比率を用いて、筆者らが推計したところでは、従業員が仕事に深い意義を感じている場合、1人につき年間9078ドルの追加利益を生み出すことになる。

 仕事に意義を見出せることが、組織全体にもたらすもう1つの利点は、離職率の低さに現れる。筆者らの調査では、仕事に深い意義を感じている従業員は、そうでない従業員と比較して、半年間で、会社を辞める計画を立てる確率が69%低く、また平均して7.4ヵ月長く会社にとどまることがわかった。

 これは企業の利益にどう影響するのだろうか。筆者らの推計では、ある企業の従業員全員が仕事に意義を感じている場合、従業員1万人につき、年間平均643万ドルの離職に伴うコスト削減が可能になるのだ。