しかし、ロシアによるクリミア併合によって、大国との間で交わされた覚書が何の意味も持たないことをウクライナ人は痛感する。

 キエフを拠点とする報道系NGO団体「インターニュース」で編集主幹を務めるヴォロディミル・イェルモレンコ氏は、アゾフ海で発生したロシア軍による拿捕が、2014年のウクライナ政変以降では初となるロシアによる直接的な武力行使であったことに注目。ロシアとの全面戦争の可能性は低いとの認識を示しながらも、ウクライナの現有兵力では国土防衛にも限界があると指摘し、西側諸国に軍事・経済の両面でロシアへの圧力を高めてほしいと語る。

「西側諸国に限らず、日本にもぜひおこなってもらいたいのが対ロシア経済制裁のさらなる強化だ。石油やガスといったエネルギー企業への経済制裁を強化してほしい。この分野に対する制裁強化で他国が団結してくれると、プーチン政権には大きな打撃になるのだが…」

支持率の低迷が続く両国の首脳
今回の衝突で得をするのはどちらか

 ウクライナのポロシェンコ大統領は先月26日、ロシアやモルドバに隣接する地域に対して30日間の戒厳令を敷く大統領令を提案。戒厳令は議会承認を経て、先月28日から発動している。ウクライナで戒厳令が発動した日には、ロシアのプーチン大統領が「自身の支持率回復のために、ポロシェンコ大統領は何かをする必要があった」と発言。来年3月に行われる大統領選挙に向けて、ポロシェンコ大統領が起死回生のためのアクションを起こしたことを示唆したが、実際にはどうなのだろうか。

 今回話を聞いた3人全員が、戒厳令によってウクライナ国内に緊張状態を作っても、ポロシェンコ大統領の支持率が大きく変わることはないと断言している。

「ロシアとの緊張関係と、ポロシェンコ大統領による国家運営の酷さは、ほとんどの国民が別問題として考えています。ポロシェンコ時代の4年間を評価し、来年の大統領選挙で彼に再び投票しようと考える人は極めて少ないと思います」(グメニューク氏)