安倍首相は、参院選を控え、党内の動揺は絶対に避けたい。自民党総裁選で思いのほか石破茂氏に票が流れた時、首相は「真摯に受け止めて」、側近の甘利明氏を選対委員長に、加藤勝信氏を総務会長に起用し、参院選に向けて党内や地方組織から二度と批判が出ないように厳しく引き締める体制をとった(第194回)。「白紙委任」の法案を出して、国会での審議を行わず、速攻で通したことも同じ考えだろう。野党よりも保守派から批判が出てくることを避けたかったのだ。

 要するに、「改正入管法」は、自民党の支持層である業界団体や地方の要望に応えたものである一方で、同じく自民党の支持層である保守派の反発を受ける可能性があるという、これまでの重要法案にない難しさを抱えている。それに加えて、来年7月での参院選の勝利という時間的な厳しさがある。その難題に対する安倍政権の「解」が、「白紙委任」の法案を即座に通してしまうという、粗っぽい国会運営だったといえる。

外国人技能実習生の人権問題が白日の下に
自民党は曖昧な妥協をするのが難しくなった

 この連載では、「全体主義」「共産主義」など他の政治体制にはなく「民主主義」だけが持つ「凄み」を論じてきた。それは端的に言えば、さまざまな政治・行政の間違いや、混乱が国民にオープンであることによって、そこから学び、修正できることである(第198回)。

 もはや「交代可能な独裁」さえも逸脱してしまった安倍政権の国会運営だが、「民主主義の凄み」が発揮されていないわけではない。「改正入管法」の国会審議や、それを報じるマスメディアを通じて、単純労働者の外国人を受け入れるには、さまざまな問題があることを、国民が知ることになったからだ。

 例えば、上久保ゼミの学生が2年前から研究し、批判をしてきた「外国人技能実習生」の人権侵害の問題だ(第197回)。この問題は、2年前にはほとんど世の中に顧みられなかった。だが、今国会の攻防を通じて、国民が広く知ることになったことは大きい。

 特に、法務省の資料を通じて、外国人技能実習生は、2015~17年の3年間に69人が死亡し、そのうち6人が自殺し、殺害された人も4人いたことが判明したことは、国民に衝撃的な事実として受け止められた。

 繰り返すが、今後「改正入管法」の細部については、各省庁で内容が詰められて、政省令として定められることになる。おそらく安倍政権は、各省庁での検討に自民党政調会の「族議員」を絡めて、実際に外国人の単純労働者を雇用することになる中小企業などの意向を吸い上げていくつもりだっただろう。