未調整だった役員報酬案

 この日、JICのオフィスを訪れた経産省の糟谷敏秀官房長は、田中社長をはじめとする代表取締役を1人ずつ呼び出し、仰々しく書面を手渡した。

 代表取締役たちは深々と礼をしながら受け取ったが、その書面には政府のお墨付きを得たことを示す経産相の印鑑が押されていなかった。それが後に重大な問題を引き起こすことになる。

 その書面には、固定給と賞与に当たる短期業績連動報酬を合わせて最大5550万円の年間報酬に加え、投資実績に応じて後に支払われる「キャリー」と呼ばれる長期業績連動報酬の導入が明記されていた。この時点でキャリーの詳細は未定で、JICの報酬委員会が設計することとされていた。

 キャリーの最大支給額は7000万円。いくら運用益が出ようとも上限を設定することでキャップをはめた格好だが、高額とのそしりを一部で受けることになる。

 だが、実は前身のINCJ(旧産業革新機構)でも、上限7000万円のキャリーが導入されている。同社が解散する25年3月には、最大で7億円もの高額報酬が支払われる可能性があるが、経産省はこの部分については一切、不問の姿勢を貫いている。

 それはさておき、JICの報酬委員会がキャリーなどの議論を始めたのは、書面を受け取った翌営業日の9月25日。コーポレートガバナンスの専門家で、JICの社外取締役を務める冨山和彦委員長の主導の下、約1カ月かけて報酬基準を策定したという。

 その後、坂根氏に報告し、正式に機関決定したのが11月6日のことだ。

 ところが、この直後に経産省が豹変する。報酬が「(最大で)1億円を超えるのか……」という首相官邸の何げない感想を過剰に忖度し、減額指示だと受け止めた経産省は突如、取締役の報酬案について白紙撤回したのだ。

 だが、取締役会ですでに決議した事案を覆すことは、株式会社としてのガバナンスを否定することを意味する。