JIC側とすれば、そうした哲学について十分に理解した上で、幾度も議論を重ねてきた。にもかかわらず、これまでの議論を半ば無視するかのように国会担当者があらためて論点を提示し、まるで「おまえたちは政治に従っていればいい」と言わんばかりの態度だったという。

 会合は2時間に及んだものの、そうした状態で不信と嫌悪という感情だけが交錯し、まともな議論には到底ならなかった。

「話が違う! このままではJICを育てることはできない!」。田中社長がそう怒りをあらわにし、最後は席を蹴ったことで両者の対立はついに決定的なものになった。

「(JICが)孫ファンドまで作って、そこから先は全く国として見えないということは想定していなかった。透明性に問題があると認識せざるを得ない。われわれは(JICの投資について)白紙委任をしているわけではない」

 世耕弘成経産相は12月10日の記者会見で、JICとの認識のずれを生んだ点についてそう解説してみせた。確かに、迅速な投資判断をする上で、認可の範囲に孫ファンドを含めるかどうかは大きな論点である。だが、互いに歩み寄る余地もなく、落としどころを見いだすことすら難しいという内容では決してなかったはずだ。

 投資実務をめぐる意見の対立や認識のずれと言えば世間に格好がつくのかもしれない。だが、問題は報酬案の白紙撤回をきっかけにして、建設的な議論がまともにできないほど、感情的に対立してしまった点にある。

 田中社長をはじめJIC側は、官邸の顔色をうかがっては報酬や認可の範囲について、次々にハシゴを外してくる経産省に対して不信感が極限にまで増幅。

 一方の経産省側は、田中社長がこれまで高圧的な言動を繰り返し、報酬案の白紙撤回という事務的失態について、次官が自ら謝罪した後も執拗に責め立てる姿を見て、一緒に仕事はできないと判断したにすぎないというわけだ。

 ただし、自らの失態で、民間経営者が作り上げたガバナンスを形骸化させて、2兆円の投資枠を持つ巨大官民ファンドを機能不全に陥らせた罪は重い。

 経産省は今後、新たに「JIC連絡室」を立ち上げ、新たな取締役の選任を急ぐ方針だ。連絡室長には糟谷官房長が就き、来春までは専任として業務に当たらせるため、官房長の業務は嶋田次官と総括審議官に代行させるという。

 事実上の降格となった糟谷官房長は、昨年12月に田中氏に社長就任を打診した張本人。だからこそ、JICへの出向も視野に入れた上で人選に最後まで責任を持たせるのだろう。

 だが、ここまでぶざまな混乱を招きながら、その渦中にいた人物に役員の招致を担わせるのは、いささか酷な話だ。トカゲの尻尾切りのごとく、糟谷氏一人に責任を押し付けた格好ともいえる。

 辞任当日、JICの社外取締役5人が公開したレターにあるように、海外勢に対抗し得るトップレベルの政府系投資機関をつくり上げ、積年の課題であるリスクマネーの供給という当初の理念は、もはや雲散霧消してしまった。

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