EI(感情的知性)の第一人者ダニエル・ゴールマンが、EIを高めるための初歩的かつ実践的な方法を示す。カギとなるのは、自己評価と他者評価の差異を知ること、そして具体的な行動を通して訓練することだ。


 EI(Emotional Intelligence:感情的知性)という概念が世界中に広がるなか、我々は、プロフェッショナル人材がEIの向上を試みてつまずくのを目にしてきた。その理由は、自分がどこに力を注ぐべきかわかっていないか、あるいはこのスキルを具体的にどう向上させたらよいかを理解していないからだ。

 我々は、企業にコンサルティングを提供しリーダーにコーチングを行うなかでわかったことがある。特定のEI能力を伸ばそうとするならば、自分が達成したい目標とともに、「他者に指摘された要改善分野」も考慮することが役に立つ。そのうえで、それらの分野について単に概念上で理解して安心するのではなく、積極的に習慣化するのだ。

 そこに至るために、まずは次の3つの問いを自問することから始めてみよう。

問い1:
「自分から見た自分」と「他人から見た自分」の違いは何か

 最初のステップは、学習がどれもそうであるように、自己認識(自分で自分をどう見ているか)と自分の評判(他人が自分をどう見ているか)がいかに異なるかを知ることだ。

 このことは、EI能力の開発には特に当てはまる。なぜなら人は、自分がコミュニケーションにおいて感情的要素をどう表現し、どう読み取っているのかについて、認識が偏っているのはもちろんのこと、まったく見えていない可能性があるからだ。

 たとえば、ほとんどの人は自分が優れた聞き手だと思っているが、実はそうではないことが多い。外から見た現実を確かめなければ、自分の行動が自分のパフォーマンスにどう影響しているかを把握するのは困難だろう。また、他者からフィードバックをもらうことで、自分の行動を変える必要性が証明され、それを実行する弾みにもなりうる。

 さらに、EIはIQと違い、単一のスコアに落とし込むことができない。感情的知性を単に「優れている」とか「劣っている」などと言うことはできない。EIには、自己認識、自己管理、社会性、人間関係管理の4つの領域があり、人はいずれかの領域が他より優れているものだ(これら4領域の中には、合計で12の習得可能な能力がある)。

 自己認識と他者からの評判の差異をよく理解するためには、EIの複数の側面を考慮に入れた360度評価を利用すべきだ。

 我々が利用しているのは、ESCI-360というツールである(Emotional and Social Competency Inventory:感情的・社会的能力指標。本稿著者の1人ダンが、ケース・ウェスタン・リザーブ大学のリチャード・ボヤツィスとコンサルティング会社コーン・フェリー・ヘイグループとともに開発し、市販されている)。しかし多くの組織は、独自の評価ツールを持っている。

 ここでカギとなるのは、次のようなツールを見つけることだ。まず、フィードバックをくれる人に関する機密性が保証されるもの。そして、業績評価(フィードバックを歪めてしまう)ではなく育成に焦点を当て、自己評価と他者評価との違いをつぶさに把握できるものだ。

 自分の行動が人間関係と仕事にどのような影響を及ぼしているかについて、外からの視点を得るもう1つの方法は、コーチを頼ることだ。自己の内面を掘り下げて、自分の思い込みやパーソナル・ナラティブ(自分に起きた出来事を把握し伝えること)のあり方が不利に作用していないかを見極めるうえで、コーチが手助けをしてくれる。

 十分な訓練を積んだコーチを見つけるには、事前にしっかり調査をすることだ。コーチングは免許のいる職業ではない。したがって、候補となるコーチが厳密なトレーニング・プログラムを経験してきたかを、自分で調べて把握する必要がある。

 コーチに頼ることが現実的でないのなら、代わりに学習のパートナーを探そう。フィードバックを信頼でき、こちらが普段どのように振る舞っているかを躊躇せず話してくれる同僚が理想的だ。