ムラカミさんは40歳のときにリストラにあい、その後はアルバイトを転々としていましたが、42歳のときに倒れて、大腸がんと診断されます。

 ムラカミさんは、離婚していて独身。

 ご両親はすでに他界していました。

 がんの末期は、身体の老化がすごい速さで進行していきます。

 ムラカミさんはわりと小柄な男性でしたが、痩せ細った身体、こけた頬、目立つ小じわ、目のくぼみは、とても40代のそれには見えませんでした。

 ある晩、ムラカミさんは痛みでじっとしていられず、「痛い、つらい」と、まるで子どもが母親に甘えるような目で、私に訴えかけてきました。

 私はしばらくの間、椅子に腰かけながら、ベッドに横になっているムラカミさんの背中をさすりました。

「ああ……、早くお迎えが来ないかな……」

 ふと、ムラカミさんがかすれた声で独り言のように漏らしました。

「誰にお迎えに来てほしいんですか?」

「えっ?」

「今、早くお迎えが来ないかなって言ったから、誰に迎えに来てほしいのかと思って……」

「そうだな……。だとしたら、お母さんだな」

 今まで眉間にしわを寄せていたムラカミさんの表情が、ふわっと緩みました。

「お母さん、褒めてくれるかなぁ……」

「えっ?」

「ずっと兄弟仲が悪かったんだけど、最後にほら、仲直りできただろ……」

 ご両親が亡くなったあと、弟さんとは音信不通が続いていましたが、末期のがんとわかってから連絡を取るようになり、今では弟さんが週に一度はお見舞いに来てくれるようになっていました。

「そうですね。ムラカミさんはどう思いますか?」

「きっと褒めてくれると思う……。お母さん、褒めてくれると思うよ……」

 お母さんのことを話すムラカミさんは、とても照れくさそうでした。