残業が60時間以上になると、
「幸福感」が上がる不可解な現象

 Bさん「これはあんまりなネーミングですよ! 残業麻痺って、長時間残業をすればするほど幸せになるってことなんですか?」 

 Bさん、ちょっと落ち着いてください。

 それは違います。長時間労働が個人を幸せにするということでは、断じてありません。ここについては、これから詳しく解説していきますね。

 先ほど見たように、超・長時間労働をしている人は、1日のほとんどを通勤と仕事に費やしており、残りの生活時間はほぼ食事と睡眠時間で埋まっています。さぞかし苦しいに違いないと思うのですが、むしろ幸福を感じている割合は、後でグラフで見るように微増する傾向があります。

 図表3‐1のグラフを見ると、よりわかりやすいかと思います。45~60時間までは、残業時間が増えていくにつれ「主観的幸福感」は下がっていきます。しかし、60時間以上になると主観的幸福感を感じる人の割合が、少しですが高まっているでしょう? 誤解してほしくないのですが、「残業時間が60時間を超えたほうが、普通の状態よりも幸福感が高まる」わけではありません。

 60時間以上の残業をしている層の幸福感は全体平均から見れば下回っており、あくまでも45~60時間の層よりわずかに上昇している、ということです。

 とはいえ、この傾向は不可解です。常識的には、「残業時間が長くなるほど幸福感は下がる」と考えられるからです。

 ちなみに、この調査でいう「主観的幸福感」とは、幸福研究の第一人者であるエド・ディーナーによる人生満足度尺度を用いています。「私の人生は私の理想に近い」などの質問で「人生が丸ごと良い方向にある」ということを5項目で測るものです。

エド・ディーナー 人生満足度尺度(*1)
(1)「ほとんどの面で、私の人生は私の理想に近い」
(2)「私の人生は、とてもすばらしい状態だ」
(3)「私は、自分の人生に満足している」
(4)「私はこれまで、自分の人生に求める大切なものを得てきた」
(5)「もう一度人生をやり直せるとしても、ほとんど何も変えないだろう」
※これらの問いに対して5段階で聴取した合計点で示される。

(*1)Ed Diener, Robert A. Emmons, Randy J. Larsen and Sharon Griffin , Journal of PersonalityAssessment(1985)