Astell&Kern

 昨年も数多くのハイレゾプレーヤーが登場した。国内・海外には様々なブランドが存在するが、相変らず人気が高いのが「Astell&Kern」だ。2012年の「AK100」でハイレゾプレーヤーの市場を広げ、2014年の第2世代機「AK240」は、これまでの常識を破る高級機種として以降のブランドの流れを決定づけた。

 2017年夏の「A&ultima SP1000」からは、第4世代機に移行。夏に「A&norma SR15」「A&futura SE100」、秋に入って「A&ultima SP1000M」が登場し、標準クラス機からハイエンド機までのラインアップが出そろった。

Astell&Kern
Astell&Kernの第4世代機

 限定モデルを除けば、実売10万円前後の「A&norma SR15」から、実売40万円に迫る「A&ultima SP1000」まで合計4機種を数える。進化の余地はあるのかもしれないが、ある種シリーズの“集大成的”な意味合いを持つラインアップ構成だ。

 音質差はあり、価格のレンジも広いが、重要なのは第4世代機であれば、おおむね使い勝手や機能が共通化されている点だ。各機種とも音質面での評価が高く、機能に関しては「これ以上求めるものはない」と思えるもの。最強と言ってもいいほどだ。

※1 2.8MHzまではネイティブ再生。
※2 各機種ともダウンコンバートであれば、768kHz/32bitまで再生できる。
※3 FLAC形式、44.1kHz/16bitの場合。

 同ブランドでは、入門機的位置づけの「AK70 MKII」も人気だが、A&○○のセグメント名が付く第4世代機は、機能やUIの一貫性を保ちつつも、異なるDACチップを利用することで音質面のバリエーションを付けている。また、画面サイズの違いによって携帯性も差別化しており、単純な上位機種、下位機種とみるよりも、自分のスタイルや基準に合わせて選べる機種と言えるだろう。

フラッグシップの一角「SP1000M」を中心にその魅力に迫る

 この記事では、現在のハイレゾプレーヤーはここまで来ているという点を中心に紹介していきたい。第4世代機の中では最新の「A&futura SP1000M」を中心に据える。音質/機能/使い勝手のすべてが最高水準であることに加えて「携帯性」という利点も兼ね備えている点が特徴。Astell&Kernの機種としてはもちろん、数あるハイレゾプレーヤーの中でも、とびぬけた魅力を持った製品に思える。

SP1000M

 実売価格は「ギリギリ20万円台に収まる」といってもほぼ30万円。ハッキリ言って高価だが、内容的にはSP1000と同等で10万円程度も低い価格設定だ。後述するように、第4世代機共通の多彩な拡張性も備えている。携帯ハイレゾプレーヤーとして、最高水準の機種であるのはもちろんだが、単品ハイエンドのプレーヤー製品に匹敵する使い方ができ、音質も引けを取らないと考えれば、割高な感じはあまりしなくなってくる。

SP1000M
SP1000M。標準モデルはブルーのアルミ筐体だ。

 デジタル信号をアナログ信号に変換するDAC部には、旭化成エレクトロニクス(AKM)の「AK4497EQ」をデュアル(左右独立)で搭載。最大384kHz/32bitのPCM、最大11.2MHzのDSDのネイティブ再生に対応する。クロックは、200Fsと超低ジッターのVCXOクロックとなる。このあたりはSP1000と同等で、SP1000譲りの切れがよく、正確なサウンドが楽しめる。

 ほかもSP1000とほとんど差がないが、アンプは少し異なる。バランス駆動時の出力は4.2VrmsとSP1000の3.9Vrmsよりもさらに高くなり(アンバランス駆動時は2.1Vrmsで、SP1000より低い)。バランス駆動時のS/N比やひずみ率もそれぞれ123dB(+1dB)/0.0006%(-0.0002%)に向上している。

 チップの型番などは公開されていないので、細かな違いは不明だが、アンバランス駆動とバランス駆動で出力がほぼ2倍になっている点は、SP1000よりも後の機種のノウハウを取り入れたものだろう。SP1000の発売から1年超の時間が経過したあとの製品なので、その間に蓄積したノウハウを反映しているのだろう。

MQAだけでなく、ハイレゾCDの再生まで可能となった

 バランス駆動やネットワーク再生、DSDのネイティブ再生、aptX HDへの対応など、早いタイミングで様々な機能を取り入れてきた、Astell&Kern製プレーヤーだが、この数ヵ月のファームウェアアップデートで、これもほぼ完璧なものになった。12月のファームウェアアップデートで「MQAファイルの再生」にようやく対応。さらに「Apple Lossless形式の32bitファイルの再生」なども可能となっている。

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MQAファイルを再生している画面。ジャケット写真の上部にMQAロゴと352.8kHzの表示が見える。

 一昔前なら、192kHz/24bitのPCMに対応していれば、ハイレゾプレーヤーとして合格と言えた。しかし、いまハイエンドプレーヤーを選ぶなら、MQAへの対応に加えて、384kHz対応DACの搭載が必須だろう。昨年は、MQAファイルをCDに入れて提供するMQA-CDが話題を集め、ユニバーサルミュージックの「ハイレゾCD」シリーズでは、352.8kHzのデータを収録している。384kHzのPCMデータは従来から、2LなどのレーベルがDXDという非圧縮の形式で配信されてきたが、音源数は限られていた。この状況も変わるはずだ。

 ちなみに、MQAファイルの再生した携帯プレーヤーはすでに多く存在するが、ネット配信でダウンロードしたり、MQA-CDからリッピングしたりして取り込むのが一般的だ。しかし、Astell&Kernのプレーヤーでは、1月の最新アップデートで、MQA-CDの直接再生も可能となった。MQA-CDは興味深い技術だが、対応する外付けDACの種類が限られ、再生環境を整えるのが少し大変だ。純正の外付けCDドライブ「AK CD-RIPPER」シリーズと組み合わせる必要があるが、後述するように、Astell&Kern製プレーヤーは単品コンポで組んだシステムとの相性もいいので、歓迎すべき機能だろう。

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AK CD Ripper MKIIと組み合わせたところ。CDを本体にリッピングするだけでなく直接再生もできる。
AK
再生中の画面。ジャケット写真がレコードのようにクルクル回る演出がなかなか楽しい。

実はSpotifyやAWAの再生もできる

 カジュアルに音楽を楽しみたいという人の間では、スマホを使ったストリーミング再生が人気だが、Astell&Kernはこのあたりもしっかりフォローしている。

 ややマニアックな使いこなしになるため、万人にはお勧めしにくいのだが、Astell&Kernのプレーヤーは、OpenApp Serviceによって、ストリーミング再生に対応したアプリを後から追加できる仕組みを持っている。詳しくはAstell&Kernのグローバルサイトを参照してほしいが、「Spotify」「Amazon Music」「AWA」などを含む21のサービスが利用でき、最近では「Deezer」アプリにも対応した。ここは要チェックである。

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AK
インストールすれば、メニューのサービスから各種ストリーミングサービスの機能を呼び出せる。Androidのアプリに相当するものをインストールできる機能と考えればいい。

 最近では、Androidベースのハイレゾプレーヤーが増えており、スマホと同様にGoogle Playストアなどからアプリをダウンロードして追加できるものが多い。Astell&Kernのプレーヤーはストア機能を持たない。スマホに詳しい人ならAPKファイルを追加するようなものと書けば分かりやすいかもしれないが、こうした機能によって、最低限の機能追加ができる余地は残しているのは利点と言える。

 高級DAPは「ハイレゾ再生のためのもの」と思い込みがちだが、実は普段スマホでストリーミング再生しているような320kbpsのMP3でも、非可逆圧縮とはいえ、十分な情報が残っている。高音質なプレーヤーで聴けば、そこがしっかり再現されてきて、フォーマットによるデメリットを感じさせない。多くの人は、プレーヤーを変えるだけで「音の再現力がここまで違うのか」「実はこんなに高音質だったんだ」と驚くのではないだろうか。

単品コンポの置き換えもできると考えれば、むしろ割安感も

 少し話が逸れるが、筆者はカスタムメイドのケーブルを1本所有している。

 毎回ヘッドフォン祭で、ケーブル制作の実演をしているORBのマイスターに製作してもらったものだ。会場で、Astell&Kernのプレーヤーを据え置きのヘッドホンアンプにつなげるよう「2.5mm4極の出力」を「XLR 3ピン×2」に変換できるケーブルがあるなら欲しいと話したところ、「ケーブル2本分の料金がかかるので、ちょっと高くなるが作れる」と言われて依頼したものである。

Astell&Kern
純正品が過去に販売されたこともあった2.5mm4極→XLR 3ピン×2の変換ケーブルだが、カスタムで制作してもらった方がだいぶ安かった。

 会場では簡単な図を描いて使用する部材を選んだ。後日、素晴らしい出来のケーブルが納品されてきたのだが、奇しくもそのケーブルのシースはSP1000Mの筐体色と非常にマッチするブルー。組み合わせるととても素敵である。

 以前からこのケーブルを使い、歴代のAstell&KernプレーヤーとOPPOの「HA-1」など、アナログのバランス入力に対応したヘッドホンアンプを組み合わせて使ってきた。「HD 800 S」など、ハイインピーダンスで高出力なアンプが必要なヘッドホンをバランス駆動したい場合には、それに合ったヘッドホンアンプが必要だ。外に持ち出さない自宅でのリスニング時には、HA-1のような機種との組み合わせが有効に思える。

 また、スピーカー再生用のシステムにも加えられる。単品Hi-Fiシステムのソース機としてもAstell&Kernのプレーヤーは有効だと思っている。筆者は、旧機種ではあるものの、某国内ブランドのフラッグシップSACDプレーヤーも所有している。これと置き換えても気にならない音質だ。単体ではディスク再生ができないので、SACDやBlu-ray Audioなどは楽しめないが、CDであれば上述したAK CD-RIPPERで再生できる。

Astell&Kern
このサイズで単品システムに負けない音が出る。HA-1はプリアンプも内蔵しているので、パワーアンプを追加すればスピーカー再生も可能だ。

 バッテリー駆動で電源部もクリーンだし、メモリー再生のため読み取り精度なども気にする必要がない。選曲なども簡単だ。対応フォーマットはむしろ多いし、かつ場所も取らないので、重宝している。

 さらにWi-Fi経由で、NASに保存したハイレゾ音源を再生したり、スマホアプリを使ったリモート操作で選曲や再生、一時停止などができる点も非常に便利だ。単品のネットワークプレーヤーを購入しようと考えた場合、数十万円の出費は避けられない面もあるが、それとほぼ変わらない機能がこのサイズで利用できる。

 これ以外にもUSBデジタル出力などを使った連携もできる。他社の製品と比べた場合、連続再生時間がやや短めであるというデメリットもあるのだが、機能面の死角はほぼない。しかも音質ではなく機能やUIの面では、最も安価なSR15を含め、第4世代機共通の特徴になっている。この統一感は、Astell&Kern製プレーヤーのメリットの一つと言えるだろう。

(後半に続く)