今回紹介するのは昼間の大学院であり、しかも社会人入試もない。およそ社会人には不向きに思えるこの学校を取り上げる理由は、この「身体表象文化学」という専攻名のさらに下に置かれたある「分野」であり、またこの専攻が2008年に設置されたものだからだ。すなわち社会人3年生以上は、この大学院への進学という選択肢を持たずに卒業したことになるだろう。すなわち今回は「改めて大学院進学」のお勧めである。

 そこまでして取り上げるのは、この大学院は、知っていたら進学したい人間は実に多かったはずだからだ。学習院大学大学院人文科学研究科身体表象文化学専攻の5分野のうちのひとつは「マンガ・アニメーション」なのである。

マンガ・アニメを
批評研究する人材の育成

 そもそも、広義の表象文化論に関係する大学院の専攻は、着々と全国に増えてきている。もともと東京大学の駒場キャンパスに置かれた表象文化論の講座が、多くのアカデミック・スター人材を輩出しながら勢力を拡げているといえばいいだろうか。映画、演劇、美術、舞踊、芸能などおよそあらゆる文化表象をフィールドにするその学問は、ちょっとした時代の寵児である。

 その表象文化の名を掲げながら、カルチュラル・スタディーズの流れに連なるこの「身体表象文化学専攻」が、真っ向からマンガとアニメーションを取り上げる。しかも、置かれる大学は学習院。話題性には事欠かない。
 マンガ、アニメーションを学問分野とする大学がなかった訳ではない。京都精華大学、文教大学などがその先駆ではあるが、学習院大学のこの大学院では、取り組み方がことなる。作者を養成する芸術系の大学のアプローチではなく、「批評研究活動をおこなう人材をシステマティックに育成する」ことを標榜しているのである。鶴見俊輔らによって行なわれてきたマンガを文化として評論する試みが、学問として成立する時期を迎えたことになる。

 世の中の要請との関係でいえば、マンガ・アニメーションのキュレーションが可能な学芸員といった、マンガの国ニッポンですっぽりと欠落している部分を埋める人材を育てる事も視野に入っているだろう。