リーマンショックと金融危機の後を受けて2010年に公開された「インサイド・ジョブ」という映画がある。アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した。

 最終的に金融危機に至ったバブルを後押しし、その過程で個人的に大いに潤った投資銀行マン、政策担当者、格付け会社、学者などに直接質問をぶつけたインタビューで構成されたドキュメンタリーだ。金融危機の真の原因を整理し理解したい人はぜひ見るといい。

 関係者が、個人的な「欲に駆られて」、不動産や証券化商品などのバブルを煽り、政策をゆがめ、しかし、その後に責任を認めない人々の様子が赤裸々に描かれている。FRBのバーナンキ議長(バブル拡大を放置したことなどが批判されている)をはじめとして、多くの関係者がインタビューを断っており、その都度、「この人物はインタビューを断った」と注釈が入る。彼らには答えたくない弱みがあることがわかる仕掛けだ。

 この作品の中で特に印象的なのは、例えば金融の規制緩和を後押しするような論文を発表したハーバードなど有名大学の学者が、金融機関やヘッジファンドのアドバイザーなどの役職に就いていて、少なからぬ(1件数十万ドル単位の)報酬を得ていたことだ。

 建前上、学術論文は、その論理と証拠から内容の正否を判断すべきものだが、その書き手が、論文のテーマについて、強い利害を持っているのだとすると、結論を素直に読むことは難しい。

 米国によくあるように、学者や金融関係者が政府の要職に就く場合、その前後にその人物がビジネス的に濃い利害を持っているとすると、政策の公平性には疑問が生じる。法律的な善悪以前に、「汚い!」ことがある。

 かつて、日本のバブルの最盛期にも、証券会社からお金をもらった学者が、バブルを煽るような研究を発表したことがある。この点では見慣れた光景だが、近年の欧米の「欲張り識者」たちがもらっていた報酬はその1桁上の印象だ。