第二次世界大戦時には兵器開発研究のために理系が重宝され、文系学生は真っ先に学徒動員のターゲットにされた。科学技術という言葉はこのころから盛んに使われるようになり、敗戦後も経済成長のために、科学技術の重要性は叫ばれ続けた。次いで、高度経済成長期真っ只中の1960年3月、岸信介内閣の松田竹千代文部大臣が、物議を醸した発言をする。

“国立大学の法文系学部を全廃し、国立大学を理工系一本槍とし、法文系の教育は私学に委ねるべし”

 さすがに実現することはなかったが、その後、理工系学部の定員は大幅に増やされた。背景には日米安全保障条約の改定に反対する学生運動があった。「法文系学部」の学生たちが活発な参加者であるとみなされていたのだ。

「植民地化されない国家の建設」と「経済成長」という明確な目標を追いかける過程で、文系と理系の分類は生まれ、定着していった。一旦生じた分類は、文系と理系の世界に集まる人や顔ぶれや、就職活動におけるイメージ、研究資金の流れに影響を与え、分類そのものを再生産していった。

知らないうちに染み付いた常識を疑え
高校生はよりよい選択を

 これからの文系と理系の分類はどうなっていくのだろうか。著者が本書『文系と理系はなぜ分かれたのか』を書き始めたときに持っていた展望は、文系と理系の2つの文化は、だんだんと近づいて一つになっていくのだろうと楽観的なシナリオを想定していたそうだ。しかし、筆を進めるにつれて、その見解は変化し、学際的な研究の成長など、統一に向けたいくつかの兆しはあるが、急速な変化は起こりえないだろうと考えている。

 また、一章を割いてジェンダー問題が取り扱われていることは本書の特徴のひとつである。医学部入試における差別問題は特段取り上げられていないが、女性の理工系分野への適性についての論争、男性の言語リテラシー向上問題は医学部入試の問題を考える上での補助線にできそうだ。

 日本の高校生の多くは、文系か理系かの二択を突きつけられる。本書を読んで、よりよい選択ができるようになるかは読み手次第だが、知らないうちに染み付いた常識を疑い、文系・理系のバイアスを外すことはできるだろう。必要なときに、必要なことを学ぶジャスト・イン・タイム学習の格好の素材だ。

(HONZ 山本尚毅)