橘玲の日々刻々 2019年1月31日

「学力は教育によって無限に開発できる」というのはフェイクニュース
一般知能は77%という高い遺伝率を誇る「遺伝的な宝くじ」である
[橘玲の日々刻々]

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 知能についての(誰もが知っている)「不都合な真実」は、それが人生において大きな影響力を持つことだ。あらゆるデータが、社会的・経済的成功が一般知能(IQ)と強く相関することを示している。

 このことは近刊の『もっと言ってはいけない』(新潮新書)で書いたが、もちろんIQですべてが決まるわけではない。社会知能(コミュ力)や感情知能(共感力)など、生きていくのに大切な「知能」はほかにもある。

 だが、ここにも「不都合な真実」がある。社会知能=SQ(Social IQ)や感情知能=EQ(Emotional IQ)は、一般知能と強く関連づけられているのだ。

 アメリカの進化心理学者ジェフリー・ミラーは、このことを『消費資本主義!』(勁草書房)で論じている。ミラーはニューメキシコ大学准教授で、創造的知能=CQ(Creative IQ)が性淘汰で進化したとする『恋人選びの心 性淘汰と人間性の進化』(岩波書店)などの著作があり、SNSでは「リベラル」の神経を逆なでするような発言で知られる。

 なお、これから述べることはメールマガジン(橘玲「世の中の仕組みと人生のデザイン」)で2回にわたって紹介したが、私たちが生きている「知識社会」を理解するうえで重要だと考えるので、あらためてまとめておく。拙著(『もっと言ってはいけない』)をすでにお読みいただいた方にも参考になるだろう。 

「いいね!」だけでユーザーの詳細な性格を診断できる

 ミラーは、人間の行動は6つの尺度で予測できるという。これが「中核6項目」だ。

 中核6項目は、心理学でいうビッグファイブに一般知能(g因子)を加えたものだ。ビッグファイブは現代心理学の中心理論で、パーソナリティ(人格/性格)は「経験への開放性(O:Openness to experience)」「堅実性(C:Conscientiousness)」「外向性(E:Extraversion)」「同調性(A:Agreeableness)」「神経症傾向(N:Neuroticism)」の組み合わせで構成されているという。――その頭文字をとって「OCEAN」とも呼ばれる。

 ミラーはここに一般知能(G)を加え、神経症傾向を「安定性(S:Stability)」に変えて「GOCASE(ゴーケイス)」という略語をつくった。

――と、ここまで読んで「人間の性格が5つの因子で説明できるなんてうさん臭い」と思っただろう。じつは私も、ずっとビッグファイブ理論には懐疑的だった。性格の特徴なんていくつもあるのだから、アカデミックな装いをした性格診断の類ではないだろうか。

 だがこの疑いは、ある出来事によって粉砕された。それが、ケンブリッジ・アナリティカ事件だ。

 ケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)はデータ分析を専門とする選挙コンサルティング会社で、EU離脱の是非を問うイギリスの国民投票やアメリカ大統領選で、Facebookから不正に取得した個人情報を利用してEU離脱派やトランプ陣営にアドバイスを行なったとして大問題になり、2018年5月に破産・解散した(これによってFacebookの時価総額は一瞬にして1000億ドル吹き飛んだ)。

 選挙分析でケンブリッジ・アナリティカが用いたのが「マイクロターゲティング」で、SNSなどの個人情報から一人ひとりのパーソナリティを解析し、もっとも影響力を行使しやすい有権者=ターゲットを抽出して集中的に広告予算を投入する戦略を立案・実行したとされている。その理論的支柱として注目されたのが心理学者マイケル・コジンスキーだ。

 2011年、ケンブリッジ大学で心理学を専攻していたコジンスキー(現在はスタンフォード大学ビジネススクール准教授)は、オンラインデータから回答者のパーソナリティを判断できるなら、面倒な心理テストは不要になるのではないかと思いついた。そして、ビッグファイブを使った標準的な性格診断テストをいくつか用意するとFacebookに投稿し、質問に答えてくれるようユーザーに呼びかけた。

 この性格テストはまたたくまに拡散して何百万というデータが集まった。このビッグデータを相互参照して解析したコジンスキーは、彼らの回答と「いいね!」のあいだに相関関係があることに気づいた。そして、心理テストを受けていなくても「いいね!」だけでユーザーの詳細な性格を診断できるアルゴリズムを開発したのだ。

 コジンスキーは2013年、研究結果を論文にまとめて発表し、容易にアクセスできるデジタルの行動記録を利用することで、ユーザーの性的指向、民族、宗教的信条、政治的見解、さらには個人的特徴、知性、幸福度、薬物の使用、親の離婚の有無、年齢、性別まで迅速かつ正確に予測できると主張した。

 コジンスキーによると、アルゴリズムによる「人格」の理解は10の「いいね!」で同僚、70の「いいね!」で友人、150の「いいね!」で両親、250の「いいね!」で配偶者のレベルに達する。

 なぜこんな奇妙なことになるのだろうか。それを知るには、「そもそも人格=性格とは何か?」から考えなくてはならない。

性格は、他者の評価の「統計的平均」を内面化したもの

 私たちはごく自然に、人格は自分の内面にあるものだと思っている。「当たり前じゃないか」というだろうが、これはほんとうだろうか。

 「氏が半分、育ちが半分」というように、性格の背景に生得的な要因があることは間違いない。行動遺伝学によれば性格の遺伝率はおおよそ50%で、残りは環境要因だ。そして子どもの人格形成においては、親の子育てより友だち関係の方がはるかに影響力の大きな「環境」であることがわかっている。

 人格は、遺伝的要因と環境要因(友だち関係)の「相互作用」によってつくられていく。

 「楽天的」な子どもや「おとなしい」子どもは、それぞれ親から受け継いだ遺伝子を持っている。子どもは、外見や能力などの生得的な特徴をフック(手がかり)にして友だち関係のなかで固有のキャラをつくっていく。

 その結果、「あの子は真面目だ」という評判が広まると、それが内面化されて真面目な性格になるし、「陽気で頼りがいがある」と評判の子どもはその期待を裏切らないように振る舞うだろう。「私」は、遺伝と環境(友だち関係)の「共進化」から生まれるのだ。

 このように考えれば、性格というのは、他者の評価の「統計的平均」を内面化したものだということになる。

 初対面の相手と会ったとき、評価するのはなんだろう? それはもちろん、「気になること」だ。

 もともとビッグファイブは、1930年代に心理学者が収集した「人間の性格を記述する英語の形容詞」4500語から始まった。この大量の形容詞を分析すると、およそ5つにグループ分けできることがわかったのだ。

 ミラーはこの5つに一般知能を加えるが、それは、他者があなたに(あなたが他者に)ついて、(外見を除けば)以下の「中核6項目」しか気にしないからだ。――それ以外にも「性格」はあるかもしれないが、誰も興味がないから「言葉(形容詞)」にならない。

① 頭がいいか悪いか(一般知能)
② 新しいものに興味があるか、保守的か(経験への開放性)
③ 信頼できるか、あてにならないか(堅実性)
④ みんなといっしょにやっていけるか、自分勝手か(同調性)
⑤ 正気か、どうかしているか(安定性)
⑥ 明るいか、暗いか(外向性)

 どうだろう。あまりにかんたんすぎると思うかもしれないが、この「中核6項目」以外に、相手の性格についてどうしても知りたいことがあるだろうか?


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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