橘玲の日々刻々 2019年1月31日

「学力は教育によって無限に開発できる」というのはフェイクニュース
一般知能は77%という高い遺伝率を誇る「遺伝的な宝くじ」である
[橘玲の日々刻々]

 

一般知能とならんで雇用主が従業員に求めるのは「堅実性」

 ビッグファイブの性格には一般知能のような単純な優劣はないが、それでも現代社会での適応度にちがいはある。そのなかでも重要なのは「堅実性(真面目さ)」で、一般知能とならんで雇用主が従業員に求める二大特徴のひとつだ。

 堅実性が低いと約束を守らないし、あっさり他人を裏切る。極度に低くなると、後先を考えない衝動性(疾患)の色合いが濃くなり、犯罪歴が長くなったりする。だったらなぜ堅実性の低い人間がいるかというと、ビッグファイブが形成されたであろう旧石器時代には、裏切りや衝動的行動は「利己的な遺伝子」にとってなんらかのメリットがあったからだろう。

 次いで重要なのは「(情動の)安定性」で、これが低いと神経質になり、極端になるとうつ病や不安障害、パニック障害などのリスクが上昇する。それに対して安定性が高いと、「たいていいつも楽観的で、穏やかで、ゆとりがあり、挫折や失敗からすぐ立ち直る」。より重要なのは、高い安定性が幸福感と正の相関を示すことで、先進国では、所得や中核6項目の他のどの特徴よりも情動の安定性から全体的な人生の満足度が予想できる。

 「外向性」は自尊心につながりリーダーシップに向いているが、内向的だから不利なのかというとそうでもなく、研究者やエンジニアなど一人でする専門職に向いている。

 「同調性」は他人といっしょにやっていける能力で、共感などと相関する。同調性が低いのは一匹オオカミタイプで、「利己的」「自分勝手」などといわれることもあるが、芸術家や起業家に向いている。

 「経験への開放性」が高いと新しもの好きで、政治的にはリベラルになる。開放性が低いと変化に抵抗し、伝統を尊重する保守主義になる。

 知能(偏差値)は正規分布(ベルカーブ)するが、ビッグファイブの性格特徴も、多くは平均付近に集まり、極端なものほど頻度が下がる。精神的にものすごく安定しているひとと、とんでもなく不安定なひとに二極化しているわけではなく、私たちの多くはたいていは精神的に安定しているものの、ときどきパニックを起こしたりする。それに加えて、知能を含む中核6項目がかなりの程度独立していることもわかっている。

 味覚には、甘味、塩味、酸味、うま味、苦味の5つの「因子」しかない(脂肪味、金属味を加えることもある)。だがその味は(微かな甘みからものすごく甘いものまで)正規分布しており、その組み合わせによって多様な味が生まれる。因子の数が少ないからといって、単純だということにはならない。

 性格もこれと同じで、きわめて複雑でさまざまなタイプがある。正規分布する中核6項目には無数の組み合わせがあり、その微妙なちがいを私たちは(無意識のうちに)見分けて、一人ひとりに独立した人格(A君とB君はよく似ているけど、やっぱりちがうね)を与えるのだろう。

現代社会でもっとも成功するのは、知能が高く、外向的で、堅実性と安定性が高いタイプ

 ビッグファイブの性格には一長一短があるが、ミラーのいう「不都合な真実」とは、それらが一般知能と組み合わされたときに顕著な特徴を示すことだ。

 現代社会でもっとも成功するのは、知能が高く、外向的で、堅実性と安定性が高いタイプだ。この組み合わせはリーダーに最適で、政治や経済の世界で大きな影響力を持つことになる。その一方で、知能が高く、内向的で、堅実性と安定性が高いタイプは研究者に向いており、ノーベル賞を取るような学者になるかもしれない。

 同様に、知能と同調性が高いタイプは組織のなかで出世し、知能が高く同調性が低いタイプは起業家として成功する。知能と開放性が高いタイプはアーティストに向いており、知能が高く開放性が低いと(保守的だと)宗教など伝統的社会で頭角を現わすだろう。

 最近登場した新種の知性も、一般知能にビッグファイブのなんらかの特徴を組み合わせたものとして理解できる。

 社会知能(SQ)は「コミュ力」のことだが、これは一般知能・外向性・同調性の組み合わせでかなり予測できる。自閉症では一般知能はほんのわずか平均を下回るだけだが、外向性と同調性はひどく低下している。

 感情知能(EQ)は「共感力」や「自己制御力」で、情動の理解は一般知能と相関し、状況に合わせて自己を的確に制御する能力はそれに堅実性・安定性を加えたものだ。

 創造的知性(CQ)は基本的に一般知能に開放性を加えたものに等しく、堅実性(勤勉さ・向上心)や外向性(社会的ネットワーキング)が加わると芸術家として大きな成功が期待できる。

 さらにいうと、アメリカの認知科学者ハワード・ガードナーのいう「多重知能」も、一般知能と才能の組み合わせに分解できる。

 運動知能は「一般知能+高い運動能力」、音楽知能は「一般知能+高い歌唱力・演奏力」の組み合わせで説明できるだろう。素晴らしい身体能力を持っていたとしても、それをどのように使えばいいかを教えてくれる「一般知能」がなければ、超一流のアスリートにはなれない。

 このように「知識社会」においては、どのような性格・能力も高い一般知能と組み合わせることでなんらかのアドバンテージ(優位性)を獲得できる。

 その影響力があまりに大きすぎるからこそ、現代社会(知識社会)では知能の(生得的な)ちがいに触れることはタブーになり、知能の高いリベラルほど「一般知能などない」と強弁するようになった。それは、自分たちの社会的・経済的成功が努力によるものではなく、たんに「遺伝的な宝くじ」に当たっただけだという事実(ファクト)を暴露されたくないからだろう。

 知能のちがいを「学力」に偽装するのは、「学力は教育によって無限に開発できる」というドグマがあるからだ。これはもちろん欺瞞だが、「良心的」なリベラルはこのフェイクニュースを手放すことができない。一般知能が高い遺伝率を持つこと(行動遺伝学では77%と推計されている)を認めると、彼らが大切に守ってきた「政治的に正しい(ポリティカリー・コレクトな)」世界観が崩壊してしまうのだ。

 このことをよく示しているのが、ミラーが出会ったというリベラルな理論物理学者だ。彼はミラーにこういった。

 「どんな人間でも超ひも理論や量子力学が理解できますよ。しかるべき教育機会さえあれば」
 

 

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) 。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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