男女が出会うきっかけは、お見合い、出会い系サイト、そしてマッチングサイトへと進化を遂げている。ここで、ある1つの疑問が生まれる。マッチングサイトの運営会社は、最適な出会いを提供するために最高の技術を導入しているというのだが、それは真実なのだろうか。多くの会社がサブスクリプション(定額課金)モデルを採用しているが、マッチング技術の進歩でパートナーが見つかりやすくなると退会率が上がるため、経営を圧迫する要因になるのではないか。


 お見合いは、何百年にもわたり、ほとんど両親や年配の親類が担当してきた。20世紀に入ると、米国人は生涯のパートナーとの出会いを主に友人に頼るようになり、家族や、時には同僚もいくらか頼りにしていた。

 コンピューターを使ったお見合いは1959年に始まったが、最大の転換期を迎えたのは、1990年代半ばに出会い系サイトが誕生したときである。いまや後戻りできない規模に成長した。婚活・恋活のマッチングサイトは25億ドル産業に成長し、いまでは米国のカップルの約25%がインターネットで出会っているのだ。

 初期の出会い系サイトは、ユーザーが自由に閲覧してメンバーと接触できる、単純なプラットフォームだった。最新のサイトでは、マッチング技術が重要な提供価値となっている。マッチングサイトのeHarmony(イーハーモニー)は、「相性の29の側面」に基づいて「きわめて相性のよい独身者をマッチングする科学的アプローチ」を用いていると主張している。OKCupid(オーケーキューピッド)は、「メンバー同士が少しでも速くつながるよう、難解な計算をたくさんしています」と主張している。

 だが、愛を求める人々は、本当によりよいマッチング技術の恩恵を受けているのだろうか。

現代のマッチングビジネスが抱える大きなジレンマ

 我々は最近の研究(カーネギーメロン大学のカイフ・チャンとアリババグループとの共著)で、マッチング会社とその顧客の間に存在する、根本的な利害の衝突について調べた。

 ユーザーは相性のよいパートナーを見つけると、定額制サイトから退会するので会社の売上げとキャッシュフローが減る。このため、利益の最大化を目指すサイトが果たして、最も効果的なマッチング技術を追い求めているのかは、定かでない。あるいは、技術革新の優先度を下げているかもしれない。

 もちろん、そもそも入会したくなるような優れたプラットフォームでなくてはならない。しかし、他の研究では、マッチング・アルゴリズムの有効性は、時としてサイトのうたい文句ほどには高くないことが示唆されている。

 この問題は、婚活や恋活のマッチングサイトに限ったことではない。ある大手転職サイトの上級幹部(サイトの収入は、やはり定額制のサブスクリプション(定額課金)モデルに依存している)は、著者の一人にこう語った。「我々の最大の悩みは、正に、我々の技術がよすぎることです。中小企業の雇用主は欲しい人材をあっという間に見つけられるので、解約率が非常に高くなります」

 この幹部はまた、会員数が増えると、大規模な営業スタッフが必要となるのでコスト高になるとも語った。このため同社は、効果を落としたマッチング技術を「小規模で」試しているという。

 誤解しないでほしいのだが、劣った技術を意図的に用いることが、マッチング業界で一般的な慣行だと言っているわけではない。だが、このようなビジネスにつきまとうジレンマについて調べる価値はある。仲介業を営む他の多くの業界にとっても、潜在的な学びを提供してくれるからだ。婚活サイトや転職サイト以外にも、顧客と業者を引き合わせる企業間調達サイト(卸売業者と中国の業者とのマッチングなど)も忘れてはならない。

 我々の理論は、マッチング・プラットフォームを利用しない業界にも当てはまる。消費者が、製品やサービスによって目的を達した後は、製品の利用を止めてしまうような業界である。

 ゴールドマン・サックスは、バイオテクノロジー企業が治癒薬に投資すべきかどうかを分析する中で、最近この問題に直面している。同社のアナリストは次のように主張している。「[1回で治癒する薬を提供することは]患者と社会に多大な価値をもたらすものの、持続的なキャッシュフローを求める[医薬品の開発者にとっては]課題でもある」。このアナリストの指摘は、米ニュース報道局CNBCの記者が言ったように、「治癒薬は長い目で見るとビジネス上はメリットがない可能性がある」ということだ。