男女平等の機運が高まりつつあるといえ、依然としてその格差は大きい。その中には、賃金のように誰の目にも明らかな格差もある。男女平等において先進的なデンマークでは、従業員数が35人を上回る企業に対して、男女間の賃金格差の公表を義務づけた。筆者らの研究により、こうした取り組みは賃金格差を解消する以上の成果をもたらすことが明らかになった。


 政府が企業に対して、男女間の賃金格差に関する報告を義務化すべきか否かついては、過去5~10年間にわたり多くの議論を呼んでいる。

 報告を義務化する法の制定を支持する人は、それが男女間の根強い賃金格差に対処する一助になると言う。反対派は、義務化はありえないばかりか、企業の事務的な負担を増して利益を減少させると主張する。最近までは、どちらの側にも強力な根拠はなかった。

 だが、我々は最近、賃金の透明化を義務づけることの影響について、初の実証的研究を実施した。その結果が示唆するのは、男女の賃金の差異を開示することで、実際に男女間の賃金格差が縮小されるということだ。加えて、次の可能性がある。

・雇用される女性の数が増える。つまり、男女の賃金の透明性が向上するにつれて、女性従業員の供給プールが増大する。
・組織の最下層から、より上級のポジションへと昇進する女性従業員の数が増える。
・主として男性の賃金上昇の勢いが弱まることによって、企業の総賃金支払額が減少する。

 我々の研究では、デンマークの企業の賃金統計を、同国における2006年の「性別の給与額統計に関する法律(Act on Gender Specific Pay Statistics)」の施行前と後について調査した。同法は、従業員数が35人を上回る企業に対し、男女の賃金格差の報告を義務づけている。

 我々は、従業員数が35~50人で賃金格差の報告義務を負う企業(ここでは「報告義務のある企業」と呼ぶ)に焦点を当て、その給与データを、ほぼ同じ規模だが従業員数が25~34人で、男女別データの公表義務がない企業群(対照群)からの同様の情報と比較した。

 調査の結果、2003年~2008年の間に、報告義務のある企業における男女の賃金格差は18.9%から17.5%へと、7%縮小した。一方、対照群の企業における格差は18.9%を保ったままであった。

 これらの結果からは、次のことが示唆される。政府は企業に対して、男女間の給与額の差異を示すデータの提供を義務づけることで、その格差に対処する有効な措置を実際に講じられるのだ。

 とはいえ、賃金の透明化は、代償なしに達成できるわけではない。

 我々の調査期間中に、すべての従業員の報酬は増加したが、報告義務のある企業に勤める男性の賃金増加は、対照群の男性よりも少なかった。

 さらに、調査対象で報告義務のある企業は、対照群との比較で、生産性が有意に2.5%低下していた。しかし、調査期間終了時には、報告義務のある企業の賃金支払額は、対照群の額よりも2.8%低かった。したがって、生産性の低下は、賃金コストの減少によって十分に相殺されている。

 また、透明性の向上による企業の純利益への影響も認められなかった。報告を義務化する新法は、利益にマイナスの影響を及ぼすのではないか、という企業の懸念には根拠がないようだ。