自分の有利な「場所」を選ぶ

「交渉場所」も戦略的に考える必要がある。
 基本的に、自社の応接室など「ホーム」での交渉が有利なことに異論はないだろう。普段から慣れている場所のほうがリラックスできるため、心理的に余裕をもって交渉しやすい。逆に、「アウェイ」であれば、それだけで精神的な圧迫を受けるものだ。

 もちろん、「ホーム」にもデメリットはある。というのは、「ホーム」で行う場合、交渉が長時間に及んだときに、自社の同席者が別の仕事のために抜けたりするといったことが起こりやすいからだ。その結果、人数的に劣勢に立たされて、交渉が不利な方向へ流れてしまうこともないわけではない。一方、「アウェイ」であれば、比較的にそういう事態は起きにくい。とはいえ、基本的に交渉は「ホーム」で行うのが有利であると言っていいだろう。

 通常、交渉は「立場の強い者」の指定する場所で行われるものだから、「立場の弱い者」に選択権はない。その意味で、「立場の弱い者」は常にアウェイでの交渉を強いられるわけで、それだけ心理的劣勢に立たされると言えるだろう。

 ただし、お互いの立場の強弱が確定していない場合には、初回の交渉場所を「アウェイ」にするのが効果的な場合もある。あえて不利な場所を自ら指定することで、この交渉に「恐れ」を抱いていないことを示すことができるからだ。そして、交換条件として、「次回は、あなたがこちらに来てください」と指定することも比較的容易だろう。こうして、交渉のイニシアティブを握ることもできるのだ。

制度を悪用する“悪徳弁護士”

 国際的な交渉では、特に「場所」が重要である。
 近年、日本企業が標的にされるケースが増えている「クラスアクション」を例に説明しよう。クラスアクションとは、アメリカの民事訴訟の一種で「集団訴訟手続」のことだ。クラスとは、「共通点をもつ一定範囲の人々」という意味。つまり、製品の不具合などによって、多数の人々が同じように被害者の立場におかれている場合に、被害者の一部が全体を代表して訴訟(アクション)を起こすことを認める制度である。

 最大のポイントは、「被害者の一部が全体を代表して訴訟を起こす」という点にある。ここが、日本の集団訴訟と決定的に異なる点なのだ。

 日本で集団訴訟を起こすためには、被害者一人ひとりから同意を取り付けることによって、原告団を立ち上げる必要があるが、クラスアクションではそのような手続きは不要。被害者の立場におかれている消費者は、「私は訴訟に参加しない」と意思表示をしない限り、自動的に訴訟に加わることになる。

 つまり、訴訟当事者が桁違いに増えるケースが多いのだ。しかも、判決や和解内容は、そのすべての消費者に適用される。そのため、裁判に負ければ、被告側の企業に莫大な損害賠償義務が課せられる可能性があるのだ。

 問題なのは、ここに目をつけて一攫千金を狙う“悪徳弁護士”がいることだ。
 私にもこんな経験がある。クラスアクションを提起された企業に対応を依頼されて、原告団から提出された資料を調査した結果、驚くべきことを発見したのだ。

 なんと、原告団に名を連ねていたのは、その訴訟の代理人を務めていたアメリカ人弁護士の家の修理を担当していた業者と、2年前までその弁護士事務所に勤務していた人物。そして、その事務所の出入り業者の三者だったのだ。

 要するに、その弁護士は、原告になりうる人物を身近なところで集めていたということだ。もしも、その訴訟に勝てば、被告企業から“その他大勢の被害者”に莫大な損害賠償金が支払われることになる。その賠償金額をもとに弁護士報酬が支払われるため、彼は巨額の報酬を手にすることができるわけだ。

 そして、その標的とされているのが、争い事を避けようとしがちな日本企業だ。
 このケースも、まさにそうだった。もちろん、実際に企業の過失によって被害を受けた方々が提起したクラスアクションには真摯に対応しなければならない。しかし、一攫千金を狙う“悪徳弁護士”に容赦はいらない。私は、徹底的に戦うことにした。