「高齢の方にオプジーボを使うメリットがあるかどうか。世間の人に聞けば、恐らくほとんどの人が無いと言うだろうが、患者さんやその家族はみんな使いたいと言う。それを私たちが断る権利は無い」と後藤医師は話す。

 日本の医療費は増加の一途をたどる。高齢化に加え、医療の高度化に伴って薬や医療機器の価格が上昇していることが背景にある。政府が昨年示した試算では、2040年度は68.5兆円と、18年度比で約75%増える見通しとなっている。

 医療保険財政への負荷を踏まえ、政府は来年度から新薬の費用対効果を測る制度を導入する。「増分費用効果比」(ICER)は、英国などでも用いられている手法。健康な1年を生きるのに、既存薬と比べてどの程度の追加費用がかかるかを測定し、分析結果によって薬価を上下に調整する。

 だが、こうした分析に詳しい米国研究製薬工業協会のケビン・ハニンジャー氏は、ICERそのものの欠点を指摘する。「例えば、私が関節リウマチを患って、物を書いたり、タイピングもできなくなったりしていたところ、ある薬によって症状が改善したとする。その結果、仕事に復帰し、税金を納め、家族の面倒を見ることができるようになっても、こうしたベネフィットはICERでは捕捉できない」と語る。

薬価下げに依存する政府

 費用対効果評価は、あくまで新薬が保険適用された後に用いることにしている。ただ、昨年12月の経済財政諮問会議で示された「改革工程表」では、保険適用を判断する際にこの分析の活用を検討することが盛り込まれ、一部の業界関係者を驚かせた。

 現在は、安全性や有効性が確認されれば、その薬は原則として保険適用されることになるが、「費用対効果が低い」ことを理由に保険適用されないことになれば、薬へのアクセス制限にもつながる。

 日本希少がん患者会ネットワークの真島喜幸理事長は「将来的に保険適用するところで評価分析が使われるようになれば、がん患者会としては本当に勘弁して欲しい事態だ」と主張する。