今回の米朝首脳会談には2つの趨勢が見られたPhoto:The New York Times/Redux/AFLO

今回の米朝首脳会談に見られる
2つのすう勢

 2月27~28日、ベトナムの首都ハノイにおいて米朝首脳会談が開かれた。今回の首脳会談のすう勢に関して大きく分けて2つある。

 まず1つは、北朝鮮の金正恩委員長がトランプ大統領の弱みに付け込もうとして制裁の完全解除を迫ったことだ。しかし、さすがにトランプ氏も北朝鮮による非核化への取り組みという条件なしに、制裁解除の要求をのむことができなかった。この溝を埋めることが難しく、合意文書は発表できなかった。

 もう1つは、トランプ大統領にとって、かつての腹心とも言えるコーエン氏の暴露問題が突如として浮上したことだ。2月27日、米下院監視・政府改革委員会の公聴会にてトランプ氏の長年の腹心だったマイケル・コーエン被告がトランプ氏の“実態”を暴露したのである。

 公聴会では、耳を疑うような内容が次々に暴露された。在米のベテラン政治アナリストはコーエン氏の暴露に関して、「開いた口がふさがらなかった。これまでに出版されたどの暴露本よりも、トランプの実態が赤裸々に世論に示された」との印象を語っていた。

 コーエン氏の暴露を受けて、トランプ氏は北朝鮮問題どころではなくなったはずだ。世論への対応のために、同氏は急ぎ帰国しなければならなくなり、記者会見が早められたとみる。

 その結果、合意文書の作成などにかかる時間が確保できなかったのかもしれない。それは、米国からの譲歩引き出しを狙っていた金委員長にとって、大きな誤算だっただろう。さらに、合意に期待していた韓国の文大統領にとっては、言葉に尽くせないような失望につながったことだろう。