20日の日経新聞に、「日銀新総裁に望む金融政策」としたアンケート調査結果が載っていた。そもそも日銀の金融政策は世論の人気で決めるものではないが、世間の人々が日銀に何を望んでいるかは興味深い。

 調査結果によると、政策金利について「据え置きを望む」が48%と最大多数だが、「引き上げを望む」が44%に及び、「引き下げを望む」が8%と、上げ下げには大きな差が付いた。アンケート対象が、日経新聞の読者であること、インターネットでの調査であることなどから、この調査対象は、平均的な日本人よりも経済リテラシーが高い層だろうと考えると、金利引き上げを望む声がこれほど多いことに少々驚いた。

 たしかに既に預金などの金融資産を持っている人は、利回りを上げられるので、金利引き上げは歓迎かも知れない。日経の記事によると年金生活者の6割が利上げを望んでいるというが、彼らが利息収入の増加を願う気持ちも分かる。利上げを望む人々は、個人的な利害の実感で投票したものかと察せられる。

 だが、まず、金利の高い低いは名目ではなく、インフレを加味した実質金利で見るべきだ。また、他方で、円高に不安を感じて、かつ景気の拡大が多数の個人にまで及ばず、サブプライム問題で世界の景気が減速しそうな中で、利上げを望んで大丈夫なのだろうか。

低金利悪玉論に影響される
国民は相当数存在する

 経済全体への影響で考えると、利上げは経済にブレーキを踏むことになる。設備投資が抑制されるし、不動産関係の採算も悪化し、不動産価格のマイナス要因ともなる。もう一つ大きな影響として、利上げは円高を加速する公算が大きい。円高は日本の景気を引っ張ってきた輸出産業に打撃となる。但し、考えてみるに、これも富裕層の個人的利害としては、海外商品が買いやすくなり、海外旅行でも有利となるので、利上げ歓迎ということになるのかもしれない。

 武藤副総裁の昇格人事に反対した際の民主党の仙石議員らの議論によると、「低金利政策は(財務省を助けると共に)預金者の富を収奪した」ということになるが、これはインフレ率や経済環境を十分に考慮していない議論だ。たしかに過去の平均的な預金金利と比べたときに、低金利時代に300兆円の富が動いた、といった計算は可能だが、日本経済が現状よりもかなり悪かったあの当時に、もし金利を上げていたら、経済の状況はさらに悲惨なことになったはずだ。また、デフレの状況ではゼロ金利でも預金の実質価値は目減りしない。たとえば6%といった昔の金利水準とゼロ金利を名目で較べること自体が「まとも」な判断ではない。