ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第98回は「EI」(エモーショナル・インテリジェンス/感情的知性)を高める方法を示した『EQ2.0』を紹介する。


 いま、世界で「EI」が注目されている。エモーショナル・インテリジェンス、すなわち感情的知性である。米国の主要ビジネススクールのエグゼクティブ・クラスでは、ほぼ9割がたEIを筆頭にソフトスキルを身につけるための講座を受講している。世界14ヵ国、60万人の読者を擁する『ハーバード・ビジネス・レビュー』でも、さまざまな国・言語でEI関連の企画や特集が組まれている。EIシリーズを立ち上げた米国はもちろんのこと、フランスではEIをテーマとした特別号を発行し大好評を博し、ドイツやポーランドでもEI関連でイベントを実施、中国、韓国、台湾でも口々に今ホットなテーマだと語っていた。

 そもそもビジネス界におけるEIは、心理学者でありジャーナリストであったダニエル・ゴールマンが1995年に提唱し、一躍注目を浴びた。その書籍の原題は、まさに「Emotional Intelligence」であったが、日本では『EQ こころの知能指数』として大ヒットした経緯があり、EQというキーワードのほうが有名であろう(そのために本書もタイトルに「EQ」を使用したものと思われる)。なお、ゴールマンの詳しい経歴、また「EQリーダーシップ」などの優れた論文のリストについては、当サイト内コラム「注目著者」をご参照いただきたい。

 EIはその後、心理学、脳科学、認知科学などさまざまな領域での研究が進み、より実を伴ったものとして発展、今日に至っている。そして今や、リーダーに欠かせないものと認識されるようになった。

 いくら優れた戦略を立案しても、実行できなければ絵に描いた餅である。そして実行にあたっては、リーダーシップがものをいう。そして外部環境は刻々と変わり、衆知を集めて柔軟に対応していかなければならない。このような状況では、以前のようなカリスマ型、トップダウン型のリーダーシップでは限界がある。さまざまなタレントとともに、しなやかにゴールを目指すためには、EIが不可欠なのである。

 ただ、EIの概念や重要性は認識されてきたものの、実際にいかに身につけていくかについては、まだまだ試行錯誤の途上にある。とはいえ、EIを生来のものとして諦める必要はない。意識して身につけられるものである。そこで実践のヒントとして使えるのが本書である。「自己認識力」「自己管理力」「社会的認識力」「人間関係管理力」の4つのスキルごとに、日常で使えるTIPSが紹介されている。また、オンラインテストのパスコードがついており、自分のEQスキルについての簡単なチェックが可能である。

 もちろん、一人ひとりがEIを高めることは、幸せで健康、かつ生産的な人生を送る際におおいに役立つものと思われる。だが、それだけではない。本書のエピローグでも述べられているように、個人から会社や組織、そして社会へと、影響を及ぼす可能性のあるものでもある。長きにわたるジェンダー闘争(現在ではダイバーシティに対する理解も入ってくるだろう)、世代間格差、グローバル格差の解消に向けた努力の一端を担うものとなるに違いない。ダライ・ラマ氏が推薦を寄せているのも、むべなるかなである。