修理されたチェロと土田英順さん
修理されたチェロと土田英順さん

 話はその英順さんが2012年9月、岩手県の大船渡で津波の犠牲になった舩渡洋子さんという女性が使っていたチェロと出合ったところから始まる。洋子さんの自宅で遺体と共に残されていたチェロは、津波の襲撃でボロボロになっていたが、英順さんは彼女の友達のたっての願いで譲り受け、札幌で大修理を施したあと、そのチェロをずっと使い続けていたという。

アヴェマリアの曲にのせて
女性の歌声が聴こえてきた

 山元町でのコンサートは、「浜で鎮魂の調べ」と題し、その浜で犠牲になった633人を偲んで非公開で催された。

 集まったのは、地元の人、被災地をめぐるコンサートを企画したボランティアスタッフ、英順さんと共に被災地を回るピアニストの鳥居はゆきさん、落語家の林家とんでんへいさん。

山元町の普門寺で、町の人たちを前に演奏する英順さんとピアノの鳥居はゆきさん
山元町の普門寺で、町の人たちを前に演奏する英順さんとピアノの鳥居はゆきさん

「(震災で破壊されて)真っ暗闇の本堂でチェロを弾いてもらえないだろうか……犠牲になった人たちの霊が集まって来るでしょう」 そう言って英順さんたちを招いた地元「普門寺」の住職坂野さん、大坪さんの姿もあった。

 英順さんは、その時のことを、ご自身のブログに次のように綴っている。

「宮城県被災地への旅」・・最後の演奏は、「浜で鎮魂の調べ」・・僕は、山元町の浜辺に立つと、チェロを弾く前に波の音を聞きながら、633人の犠牲者に祈りを捧げました。「どうか安らかに・・あなたがたのご親族やお友達は、耐え難い悲しみに耐えながら頑張っています。どうか天国から見守ってあげてください。」G線上のアリア、アヴェマリアなど4曲を、目を閉じたまま続けて弾きました。弾きながら、涙がひとすじ、ふたすじ頬をつたわっていくのがわかりました。(ブログ『土田英順のボストンバッグにチェロと酒』より)

 秋の夕暮れ。一同、浜辺に響くチェロの音色に聞きほれているなかで、それは起きた。アヴェマリアの曲を弾き始めた時、誰かが口ずさむハミングが聴こえてきたのだ。