『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』では毎月、さまざまな特集を実施しています。ここでは、最新号への理解をさらに深めていただけるよう、特集テーマに関連する過去の論文をご紹介します。

 2019年4月号の特集タイトルは「シニア人材を競争力に変える」である。

 世界中でいま、高齢化が急速に進行している。この課題への対応に消極的な企業は少なくないが、シニア世代のナレッジを有効活用することには、単なる義務以上の意義がある。シニアが働きやすい環境をつくることは、他の世代にも恩恵をもたらす。一歩先を行く企業こそが、競争優位を築くことができる。

 ミルケン研究所センター・フォー・ザ・フューチャー・オブ・エイジングのポール・アービング会長による「シニア世代を競争優位の源泉に変える」では、シニア人材を積極的にマネジメントする意義が示される。世界的に高齢化が進行している。それは避けようがない。ほとんどの人がそれを危機と見なしている。だが、健康で活動的な高齢者も増えてきており、寿命の伸びは世界的な経済成長に寄与するという報告もある。そして多くの企業リーダーが、高齢化がもたらす事業機会を見逃している。高齢者への適切な施策は、何世代にもわたる社員たちが活きいきと働きやすい環境という多大な恩恵をもたらし、ひいては競争優位につながるのである。

 ハーバード・ビジネス・スクールのウィリー C. シー教授らによる「中高年の再教育プログラムの効果を上げる7つのポイント」では、仕事を失った中高年労働者の再教育に焦点を当て、再教育と再就職がスムーズに運べるポイントを紹介する。テクノロジーが日進月歩で進化し、オートメーション化やグローバル化、オフショアリングが進み、古い産業の縮小と新しい産業の勢いが増す米国。こうした状況は日本にも当てはまることだが、米国では工場閉鎖などに伴う従業員の失業、そして再就職にはどのようなサポートが取られているのだろうか。

 ミシガン州立大学のピーター・バーグ教授らによる「優秀なベテラン社員の退職リスクを抑える方法」では、米国とドイツの8つの工場の調査から、ベテラン社員退職時のナレッジ喪失のリスクを明らかにするとともに、それにどう対処していけばよいのか、3つのアプローチを提案する。ベテラン社員が、長年積み上げてきたスキルや人脈、組織のナレッジを引き継がないまま退職してしまうことが、経営上の大きなリスクとして顕在化しつつある。そうした問題意識さえ抱いていない企業も多いが、本稿は「退職リスクに備えよ」と警鐘を鳴らす。

 ノースウェスタン大学ケロッグスクール・オブ・マネジメントのニコラ・ビアンキ助教らによる「ポストが空かない職場で若手の意欲を高める3つの施策」では、高齢化社会で、キャリアに基づくインセンティブ制度が不全になる中、どのようにして労働者の働く意欲を高めていくか。3つの施策を提示する。退職年齢を過ぎても、ポストにしがみ付いて、辞めようとしない傾向が強まっている。こうした「ポストの占拠」は、若手従業員の昇進機会を少なくし、優秀な人材の離職を招きがちである。

 ケアリング・アクロス・ジェネレーションズ共同ディレクター サリタ・グプタらによる「社員の介護支援は利益につながる」では、従業員の離職率を低下させたり、人材採用を有利に進めたりといった成果をもたらすべく、企業が社員の介護負担を軽減する取り組みに本腰を入れるべきだと説く。米国ではいま、高齢化の進展に伴い介護問題が深刻化している。政府はもちろん、企業もこの問題から目を背けることはできない。社会福祉費用が削減され医療費も高騰する状況では、一部の富裕層を除いて有料サービスに頼ることは難しく、ほとんどが家庭での介護に当たっている。介護を担う家族たちは、その費用を工面するためにも働き続ける必要がある。だが現実には、公的支援を使い果たし、有休もすべて消化した結果、貴重な人材が退職に追い込まれている。

『ハーバード・ビジネス・レビュー』編集コーディネーターのラムジー・カバズらによる「高齢化問題をデータで読む」では、米国のX世代とミレニアル世代の間に見られる意識の違いが、データによって明らかにされる。

 早稲田大学大学院経営管理研究科の竹内規彦教授らによる「シニアの『心の高齢化』をいかに防ぐか」では、加齢に伴い人の内面は何がどう変わるのかを明らかにし、加齢のポジティブな側面を組織の強みにつなげられるかを考察する。そのうえで、企業がシニア人材を組織の「活力」の源泉とすべく、いかに育成・活用すべきかについて考える。世界第1位の長寿大国となった日本において、シニアの就業者数は増加の一途をたどっている。その活用に取り組む企業は増加しているが、「雇用保障」や「福祉」の対象という位置付けが多いのが現状だ。しかし、労働人口の減少などを背景に、これからは「企業の価値ある内部資源」として、シニア人材を活用し、競争優位につなげる必要性が高まっている。

 すかいらーくグループ創業者であり、高倉町珈琲の横川竟会長へのインタビュー「商売に定年なんてない」では、高齢者雇用の実際が示された。2013年の開店以来、関東近郊を中心に20店舗を展開するこの企業を率いるのが、横川竟会長(81歳)。横川氏が高倉町珈琲を起業したのは76歳の時で、経営を担う本部スタッフの平均年齢は65歳と、超高齢化社会に向かう日本にとって、新しい会社のあり方を示している。