いかなる分野のリーダーであれ、人々の人生と、世界がどう発展するかに大きな影響を与えることになる。世界的指導者のダライ・ラマ氏は、リーダーは自分が生きている間に、世界をよりよい場所にするために努力すべきだと語る。そして、その重責を果たすためには、マインドフルになり、無私であり、思いやりを持つことが重要であるという。


 私は過去60年近くにわたり、政府や企業、その他の組織を率いるたくさんのリーダーたちと交流してきました。そして、社会が発展と変化を遂げていく様子を見てきました。私が学んだことは皆さんの役に立つかもしれないので、ぜひとも私の考えの一部を皆さんと共有したいと思います。

 リーダーはどの分野にいるのであれ、人々の人生と、世界がどう発展していくのかに大きな影響を与えます。私たちは、自分たちが地球に一時的に滞在しているということを忘れてはなりません。私たちが地球で暮らすのは、長くても90年か100年ほどです。その間に、世界をよりよい場所にするために努力すべきです。

 よりよい世界とは、どんなところでしょうか。答えは明白でしょう。よりよい世界とは、人々がより幸せな世界です。なぜなら、人間は誰しも幸せになりたいからです。誰も苦しみたくはありません。幸せになりたいという思いは、誰もが等しく持っている願望なのです。

 しかし現在、世界は感情の危機に直面しているようです。ストレスや不安、鬱の度合いが、かつてなく高まっています。貧富の差、そしてCEOと従業員の格差も、歴史上まれなほど広がっています。また、利益を上げることに集中するあまり、人や環境や社会への責任がしばしば放棄されています。

 私たちが互いを「我々」と「彼ら」という視点で見なしがちなのは、人々の相互依存性を理解していないからです。私たちは同じグローバル経済の参加者として、互いに依存しています。気候と地球環境の変動は、人類全体に影響を及ぼします。さらに、人間である私たちは、肉体的にも精神的にも感情的にも、みな同じなのです。

 蜂を考えてみてください。蜂の世界には憲法も警察も道徳教育もありませんが、彼らは生き残るために力を合わせて働いています。時にはささいな争いごとをするかもしれませんが、蜂の共同体は協力することで生き残っているのです。

 かたや人間は、憲法や複雑な法制度、警察部隊を持っています。そして素晴らしい知性と、深い愛情を発揮する能力があります。ところが、多くの素晴らしい特性を持っているにもかかわらず、私たちは協力することが苦手なようです。

 組織では毎日、人々がともに働いています。しかし、ともに働いていても、多くの人々は孤独とストレスを感じています。私たちは社会的動物ですが、互いへの責任感が欠けているのです。何が問題なのか、自問しなければなりません。

 リーダーは物質的な繁栄と富の蓄積を強く重視することにより、思いやりといたわりという人間の基本的欲求を顧みなくなってしまったのでしょう。

 社会や組織、そこに属する個々人が長期的に繁栄するためには、人類の一体性を大事にする姿勢と、同胞への利他主義を取り戻す必要があります。一人ひとりのリーダーが、これを実現する責任を担っているのです。

 そのために、何ができるでしょうか。