ジェンダーの多様性は企業の生産性にどんな影響を与えるのか。すでに多くの研究が、その有効性を示している。ただし、それらの対象は単一の国や業種内に限定されており、普遍性に乏しいという批判の声もある。だが筆者らの研究によって、より一般的に、企業がジェンダーの多様性を担保する意義が示された。本記事では、その3つの理由を紹介する。


 実業界は長らく、ジェンダーの多様性がビジネスの業績にどう影響するかを議論してきた。多様性は、企業の生産性を上げるだろうか。

 イエスと答える者は多い。一部の研究者は、ジェンダーの多様性が革新的な思考を促し、企業の経営力の高さを投資家に示すシグナルになると主張する。ノーと答える者もいる。否定的見解の研究者は、ジェンダーの多様性は、時に企業パフォーマンスを阻害すると指摘する。

 だが、大半の研究は、このテーマを単一の国もしくは業種内で検討したにすぎない。そのため、その国や業種に限った研究結果が出る傾向にある。

 そこで、我々はこう考えた。矛盾した研究結果が出るのは、文脈の違いのせいではないだろうか。ジェンダーの多様性に対する人々の考え方に、地域や業種が影響を及ぼしている可能性があり、これは多様性が業績を向上させるか否かも左右しているのかもしれない。

 執筆陣の1人(チャン助教授)が実施した調査研究で、そのことが浮き彫りになった。35ヵ国24業種の主要企業1069社を対象にした調査から、ジェンダーの多様性は、それが「規範」と見なされている文脈においてのみ、市場価値や収益の点で、企業の生産性の高さと関連性があることが判明した。「規範と見なされている」とは、ジェンダーの多様性が重要であるという、文化的価値観が浸透していることを意味する。

 言い換えれば、ジェンダーの多様性を重視するという価値観が、自己充足のサイクルを生み出す。ジェンダーの多様性を重視する国や業種は、ジェンダーの多様性が生み出す利益を得ている。重視しない国や業種は、それを得ていないのだ。

 たとえば、歴史的に比較的ジェンダー格差の小さい西欧の電気通信企業における女性の比率は、企業の市場価値の高さと大いに関連があった。具体的には、ブラウのジェンダー・ダイバーシティ・インデックス(詳細は囲み記事を参照)で10%上昇すると、市場価値がおよそ7%上昇するという関連性があった。一方、歴史的にジェンダー格差がある中東のエネルギー産業においては、企業のジェンダー格差と企業パフォーマンスは無関係だった。

 興味深いことに、女性が働くことを規範として受け止める社会では多様性のプラス効果が認められたが、当局が定めた規定しか支援のない社会では認められなかった。仕事を持つ女性に対する当局の支援は、規範として受け入れられることと相関関係はあるものの同じではない。国によっては、文化的に強力な支援がありつつも、法的枠組はほとんどないことがある。逆に、法的枠組はできていても文化的には男性優位が根強いこともある。

 一例として、日本を取り上げよう。日本は世界でもトップクラスの充実した育児休業制度が整えられている一方で、男性優位の職場環境にも悩まされている。そのため、日本のような国は、文化的にジェンダー格差の少ない西欧のような地域の企業と比べると、ジェンダーの多様性が高くても、そのことから得られるプラス効果は西欧の企業ほどには見られない。

 各国を比較すると、ジェンダーロール(性別によって社会から期待される役割)に対する姿勢など、国内における多様性の規範が驚くほど重要なことが明らかになった。このデータが示すのは、多様性が効果を発揮するには、働き手みずからが多様性の価値を信じる必要があるということだ。

 規則が示されるだけでは足りない。多様性は、そこに人々が本質的価値を見出してこそ、プラス効果をもたらすのである。多様性の受け入れを「義務」と感じているようでは、話にならない。

 多様性の価値に対する考え方が実際の価値を大きく左右する理由は、主に3つあると我々は見ている。これら3つの理由から、ジェンダーの多様性がもたらすメリットを享受したいと思っている経営者は教訓を得ることができるだろう。