テクノロジーによってビジネス環境が再編されており、従業員には新たなスキルを身につけることが求められている。だが、多くの人が日々の仕事で忙殺されてしまい、能力開発に十分な時間を割くことは難しい。筆者らは、毎日のワークフローに学習のチャンスを組み込むことを提案する。本記事では、個人と会社それぞれの視点から、日常に学びの仕組みをつくる具体的方法論を示す。


 自動化や人工知能(AI)、新しい職業形態によってビジネス界が再構築されていくなか、生涯学習は経済的に不可欠なものとして認識されるようになった。

 現在、CEOの80%は、自社に「新しいスキルが求められている」ことが最大のビジネス課題であると考えている。また従業員にとって、職場の満足度を決定づける要素として、「能力開発の機会」は2番目に重要であるという調査結果もある(1位は「仕事そのものの内容」)。

 最も基本的なレベルでいえば、人間は幼形成熟(ネオテニー:未成熟な部分を多く保っている)な生き物であるため、生涯を通じて学ぶ本能を持っている。つまり、私たちが仕事において常によりよい方法を模索するのは理に適っているわけだ。実際、成長思考(growth mindset:人間は変われるという考え方)のムーブメントの根底には、この人間本来の欲求がある。

 加えて、人材の採用は金のかかるゼロ・サム・ゲームだが(A社がある優秀な人材を獲得すると、B社はその人材を得られない)、学習は両者を救うことになる。

 とはいえ、急ぎの仕事があれば、学習というぜいたくは二の次にされる。筆者らがリンクトインと共同で実施した最近の調査では、従業員は1日の3分の1を、本来の仕事にほとんど、あるいはまったく関係ないメールのやり取りに費やしているという結果が得られた。従来型の社内学習ポータル(学習管理システム)が利用されることはほとんどなく(強制的なコンプライアンス研修を除いて)、何度もクリックしなければ必要なコンテンツにたどり着けないことも少なくない。

 こうして学習は、結局は(意識的にも、無意識的にも)アイゼンハワー元大統領の分類で言うところの「重要だが至急ではない事項」へと成り下がる。知識労働者が1日に捻出できる正式な学習の時間は、平均わずか5分間である。私たちは皆、止められないワークフローにとらわれすぎているのだ。

 そこで、次の問いが浮かび上がる。どうすれば、激流のような日常のワークフローに学習を組み入れることができるのだろうか。その方法はある、と我々は考えている。筆者らの一人ジョシュが考案した、「ワークフロー内学習」という新しいパラダイムだ。

仕事の流れとは、具体的にどのようなものか

 仕事で経験することは人によって異なるのは当然だが、知識労働者には、大まかな共通点もいくつかある。

 世界には7億8000万人の知識労働者がおり、毎日6.5時間をコンピュータの前で過ごしている。より具体的には、メールに割いている時間が28%、情報収集(データ検索)が19%、社内のコミュニケーション(公式および非公式)が14%となっている。これら3つの活動を合わせると、膨大な知識労働者人口の総労働時間の61%を占める計算になる。

 知識労働者が情報の吸収と拡散にそれほど多くの時間を割く必要があるのは、不思議ではない。データや事実、情報、知見を見つけ出して他者と共有することは、ほとんどの人にとって、ごく日常的な活動である。実際、ネット上でシェアされるコンテンツの38%は、有益な知識や情報を与えてくれる内容のものだ。

 本当に学びを得るには、職場での日常と職業生活に学習を無理なく組み込むことが必須である――この認識が、ワークフロー内学習という新たな概念である。社内学習を、達成すべき目標として捉えるのではなく、学びが向こうからやって来るようにするのだ。

 優れたデザイン思考と最先端のテクノロジーを利用すれば、学習が仕事に溶け込んで目立たなくなるような方法や体験を生み出すことができる。いまでは当たり前のことになっているが、グーグルとYouTubeは「流れの中で学ぶ」ための最も古い2つのプラットフォームといえる。

 では、ワークフローの中で学びを進めるにはどうすればいいのか。最初は個人の視点(ボトムアップ)から、次に会社の視点(トップダウン)から考えてみたい。