先般公開されたマーク・コバックらの寄稿「来たる景気後退に備え、営業はどうあるべきか」では、景気後退後もなお勝者となっている企業は、そのはるか前から先んじて、デジタルツールを最大限活用し、営業組織の改革や市場開拓戦術などに取り組んでいた。これを受けて、日本企業ではどうすべきか、固有の事情を考慮しながら進むべき道を紹介する。

大越 一樹
ベイン・アンド・カンパニー パートナー
京都大学法学部卒業、フランスHEC経営大学院修士課程(MBA)修了。第一勧業銀行、アーンスト・アンド・ヤングを経てベインに参画。通信・テクノロジー、自動車、金融などの幅広い業界において、全社戦略、顧客ロイヤルティ(NPS(R))向上を中心とした顧客戦略・マーケティング、営業改革、アフターサービス戦略等、多岐にわたるテーマのプロジェクトに携わっている。

 日本企業が営業改革に取り組む場合には、企業活動に大きな変化をもたらしている新たな潮流を念頭に置きながら、自社の営業組織がどのように変わるべきかを考えていく必要がある。

 営業とは「利益を得る目的で、継続的に事業を営むこと」(大辞泉)を意味し、企業全体の営利活動から顧客を対象にした販売活動まで、同じ言葉が使われている。言い換えれば、顧客に向けた販売活動のあり方には、その企業が社会に対して価値を生み出す営みのあり方すべてが反映されている場合が多い。営業改革にあたっては、自社が顧客に対してどのように価値を生み出していくのかを大局的視点で併せて考えていく必要がある。

 企業の価値提供や営業のあり方の変化を考えるうえで、視野に入れるべき2つの潮流は「民主化」と「加速」である。企業はこれまで標準化・大規模化によりコスト効率性を高めながら財を生産し、供給してきた。規模の経済を前提としたこのモデル自体はいくつかの業界で今後も有効であり続けるだろう。

 一方、さまざまな情報や生産手段、流通チャネルに誰でも簡単にアクセスできるようになった結果、小規模なプレイヤーが知恵と力を獲得しつつある。たとえば、これまで大手総合メーカーの独擅場であった家電に、ユニークなアイデアや技術さえあれば、以前より容易に参入できるようになった(価値創出における「民主化」)。

 この動きは企業だけでなく、プロシューマーと呼ばれる個人にも(プラットフォーマーの助けを借りながら)広がっており、たとえば私たちはYouTubeで多彩なコンテンツを視聴できるという恩恵に浴している。

 こうした「民主化」の動きと合わせて、価値創出・提供のスピードが加速している。1億人の顧客を獲得するために要する時間は年々短くなっており、また製品機能の改善サイクルもハードウェアの制約に縛られず、ソフトウェアの頻繁なアップデートや情報連携により早くなっている。

 つまり、企業が中央集権・計画経済的に年単位で、標準的な製品やサービスを開発・生産・販売した時代から様相が一変しており、新たな価値が様々な現場で小規模・高頻度で生み出されるようになったということである。