橘玲の日々刻々 2019年3月22日

ヤフコメの調査から見えてきた
「嫌韓嫌中」など過度な投稿者たちの正体
[橘玲の日々刻々]

「ヤフコメ民」の正体は40代男性

 Yahoo!ニュースの2015年9月2日のブログによると、1日あたり約4万人のユーザーが約14万件のコメントを投稿しており、性別では男性が8割以上で、30代・40代の男性が全体の5割を占めている。ニュース閲覧の主要ユーザーは30代男性だが、コメント機能にかぎっては40代男性に突出して高い傾向がみられるという。こうしたコメント投稿者は「ヤフコメ民」と呼ばれている。

 Yahoo!ニュースのうち木村氏が分析対象にしたのは「政治」「社会」「産業・経済」「海外・国際」「沖縄」の5大分類に属する記事(ハードニュース)で、1週間で1万強の記事が配信され、約半数の記事に合計50万弱のコメントが投稿された。

 これらのコメントは5万6000あまりの投稿者識別IDから投稿されていて、先行研究が示すように、一部の投稿者が大量の投稿をしていた。

 具体的には、1週間で101件以上コメント投稿している投稿者IDは1%に過ぎないが、延べ投稿コメント数は2割に達する。1週間で21コメント(1日平均3コメント)以上する投稿IDは1割で、延べ投稿コメント数は6割を占める。1週間70コメント(1日平均10コメント)以下のIDを集計すると、98%の累積投稿者IDがコメント数で3分の2を投稿していた。逆にいうと、1週間に71コメント以上する2%の投稿者がコメント数で3分の1を投稿していることになる。

 ここから、「ヤフコメ民」は大きく2つのグループに分けられる。平均より著しく多いコメントを投稿する1000ID(2%)に満たない少数派(過度な投稿者)と、一人ひとりのコメント数は多くないが、全体としては全コメントの9割ちかくになる多数派(穏やかな投稿者)だ。

 「過度な投稿者」と「穏やかな投稿者」で顕著に異なるのは、返信コメントと評価(「そう思う」「そう思わない」)、および侮蔑表現(機械学習を用いてコメントに侮蔑表現が用いられているかどうかを判定した)の割合だ。

 2%の「過度な投稿者」は、(自分のコメントに対して返信される)返信コメント数で全体の45%、評価で33%、侮蔑表現該当数で33%を占めていた。1000に満たない投稿者IDが「ヤフコメ」ネット世論空間をつくるうえで大きな役割を果たしている。

 それに対して98%の「穏やかな投稿者」は返信コメントがほとんどなく、評価も限られ、侮蔑表現該当率も低い。ただし圧倒的な多数派なので、グループで累積すれば返信コメントの55%、評価と侮蔑表現の3分の2を占めている。こちらは、「ヤフコメ」ネット世論空間を構成する基盤にあたる。

 「過度な投稿者」をさらにグループ分けすると、約6割は記事に関連してなんらかの「敵」を罵倒することが目的となっている。木村氏は彼らを「罵倒攻撃者」と名づけた。

 その一方で、約3割の「過度な投稿者」には極端な罵倒表現が見られない。だとしたら彼らは何のために頻繁に投稿するかというと、その目的はたくさんの評価(「そう思う」の数)を獲得することだ。そのため、閲覧者が共感し「そのとおりだ」と思えるようコメントの表現に工夫を凝らす。木村氏はこうした行為が承認欲求や賞賛獲得欲求と結びついている可能性があるとして、「肯定的反応追求者」と名づけている。

 「過度な投稿者」の小グループのなかで興味深いのは、約5%が返信コメントを主にしていることだ。「罵倒攻撃者」が記事に関してコメントするのに対して、彼らのコメントのうち約4割が返信コメントで、コメントに対して罵倒コメントしている。

 返信コメントで罵倒する少数派は、複数のIDを使い分けて(なりすまし)返信コメント内で炎上を画策することもあるらしい。木村氏はこうした行為について、記事に対して自らの主張をコメントするのではなく、誰かのコメントに対して突っ込みを入れて炎上を楽しむユーザーが一定数いるのではないかと推測している。

2%に満たない「過度な投稿者」が「ネット世論」を牽引している

 「ヤフコメ」では2%に満たない「過度な投稿者」が返信コメントの半分ちかく、評価の3分の1を獲得して「ネット世論」を牽引している。そのうち6割は罵倒することを目的とする「罵倒攻撃者」だが、それ以外に、コメントを罵倒して炎上させようとするユーザーが5%程度いる。残りの約3割は、できるだけ多く「そう思う」の評価を獲得しようとする「肯定的反応追求者」だ。

 それでは、彼らはどのようにしてひとびと(閲覧者)の関心を引こうとしているのだろうか。

 具体的な分析は『ハイブリッド・エスノグラフィー』にあたってほしいが、どのようなグループを見ても、ハードニュースのコメントの最大の関心事が「韓国(「慰安」「在日」「竹島」などの語彙を含む)」カテゴリーであることは明らかだ。

 「罵倒攻撃者」では「韓国」カテゴリーが親コメント全体の40%、返信コメントの50%を占めており、侮蔑表現も多用されているが、彼らは複数の投稿IDやIPアドレスを使い分けているわけではない。投稿者IDの約8割は1次のIPアドレスとのみ結びついており、IPアドレス側から見ると、95%ちかくが1つの投稿者IDとしかつながっていない。「罵倒攻撃者」は自らの主張が「正義」だと思っているので、実名を晒さないまでも、匿名性に過度に配慮する必要を感じないようだ。

 「肯定的反応追求者」も、侮蔑的な語彙こそ使用しないが、「韓国」カテゴリーを主要なコメント対象にしている。「何度謝罪しても、相手が納得しないのであれば、もっともっと、距離をとるべきだ」のように、閲覧者たちの共感を集め、訴えかける要素を持つコメントを投稿している。

 木村氏の調査が行なわれた2015年は戦後70年の節目を迎えたことから、戦争責任、慰安婦問題、賠償問題 歴史問題に関連して韓国・中国への違和感(敵意)を表明するコメントが中心となっていた。だがそれ以外でも、多くのコメントが投稿された事件がある。

 そのひとつが、千葉・船橋の「18歳少女監禁・生き埋め殺人事件」だ。命乞いする被害者を生きたまま土中に埋めて殺害するという凄惨さが日本社会に大きな衝撃を与えたが、「ヤフコメ民」の多くが加害者と被害者の個人情報に対する非対称性に強い違和感(異議)を表明した。「被害者は未成年でも実名を晒されるのに、加害者は、少年法に守られ、実名を晒されないことには、どうしても納得できない」などがその典型だ。こうしたコメントには多くの評価(「そう思う」)や返信コメントがつくことから「ヤフコメ」投稿者の多数派(マジョリティ)を構成していることがわかる。

 1週間のコメント平均数が3に満たず、侮蔑表現該当コメントも平均0.1とほとんどない投稿者IDは全体の8割以上を占める。週に2、3回、思ったこと感じたことをコメントし、評価や返信コメントがつくことで他のユーザーのレスポンスを感じ取る程度のつき合い方をしている。

 そんな「平穏」なユーザーのあいだでも韓国・中国関係は強い関心を集めている。彼らも日本と韓国・中国を対立関係として捉え、慰安婦問題、戦争責任、戦後補償、植民地支配について日本の立場を強調し、「韓中(とくに韓国)がいくら謝罪しても結局(賠償金をとろうとして)問題を蒸し返す」という認識にもとづくコメントをしている。「過度な投稿者」とのちがいは、「韓国はアメリカから離れ、中国のゴマすり」のように、韓国・中国が「アメリカ」「世界」という文脈に結びつけられてコメントされることだ。

 「ヤフコメ民」の大多数は、アメリカに関しては、親米でも反米でもなく、覇権国としての振る舞いを冷静に観察する面を持っており、「「日本」に社会的アイデンティティを求め、さらに近隣諸国を外集団とし、内集団意識を明確化、強化したいという強いベクトルを見て取ることができる」。これは、私が「日本人アイデンティティ主義」と呼ぶ特徴を顕著に示している(拙著『朝日ぎらい』朝日新書)。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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