橘玲の日々刻々 2019年3月22日

ヤフコメの調査から見えてきた
「嫌韓嫌中」など過度な投稿者たちの正体
[橘玲の日々刻々]

ネット世論の極端な言動は「マジョリティ」の分断に原因

 ヤフコメのビッグデータを分析した木村氏は、「ヤフコメ民」をコメント投稿へと動機づけるのは、(彼らのモラルに照らして)「理不尽」な感覚、ある種の「正義感」と、マスコミへの批判的態度」だという。さらに、「気持ち」という名詞が「悪い」という形容詞と強く結びついていることから、「「ヤフコメ」は、何かに対して「気持ち悪さ」を感じていることを表出する傾向がある」とされる。
 こうした投稿行動を、木村氏は以下の5つにまとめている。AとBは「過度な投稿者」に、C、D、Eは「平穏な投稿者」のコメントにも頻出している。

A 韓国、中国に対する憤り
B 被害者が不利益を被ること(加害者が権利保護を受けること)への憤り
C 近隣諸国を外集団とし、「日本」に社会的アイデンティティを求め、内集団意識を明確化、強化したいという強いベクトル
D 社会的規範を尊重しないことへの憤り
E マスコミに対する批判

 木村氏は、アメリカの社会心理学者ジョナサン・ハイトの「道徳基盤理論」(『社会はなぜ左と右にわかれるのか―対立を超えるための道徳心理学』紀伊國屋書店)を援用して、ヤフコメでの「嫌韓・反中」や「反日・売国奴」への批判・攻撃などは「理性より直観的情動と考えた方が適切である」と述べる。より詳しい説明は準備中の書籍で行なわれるとのことなので期待したいが、結論だけを簡潔に述べるなら、「ヤフコメ」の底流には「内集団」「権威」「公正(因果応報)」の道徳的基盤が強く働いている。こうした気分(道徳感情)によって形成されるネット世論を、木村氏は「非マイノリティポリティクス」と名づけた。

 「非マイノリティ」とは要するに「マジョリティ」のことだが、「マジョリティ」として十分な利益を享受していないと感じているひとびとのことだ。その特徴は「生活保護」「ベビーカー」「少年法(未成年の保護)」「LGBT」「沖縄」「中韓」「障がい者」など少数派への批判的視線・非寛容で、マイノリティの人権についての主張を「弱者利権」「被害者ビジネス」と見なし、権利や賠償を勝ち取る行為としてとらえている。

 私はこうした現象を、世界的に「主流派(マジョリティ)」のなかでの分断が進んでいるからだと考えている。アメリカ社会では「白人男性」がマジョリティだが、ラストベルト(錆びついた地域)に吹きだまり、トランプを熱狂的に支持し、アルコール、ドラッグ、自殺で「絶望死」しているのはブルーワーカーの白人男性だ。彼らはアメリカ社会で自分たちこそがもっともないがしろにされていると感じており、アファーマティブアクション(積極的差別是正措置)で「抜け駆け」する黒人や移民などマイノリティにはげしい敵意を抱く。

 日本社会の主流派は「男性」だが、そこでも「モテ(持てる者)」と「非モテ(持たざる者)」の分断が進み、女性(マイノリティ)の権利を主張するフェミニズムを嫌悪しバッシングしている。

 知識社会化とSNSなどのコミュニケーション・テクノロジーの普及によって、今後、こうした「マジョリティ」の分断はますます進んでいくだろう。

リベラル派の81.4%が「第二次世界大戦の日本の行為に関して、いつまでも謝罪を求める国は行き過ぎだ」と考えている

 木村氏はネット世論を「極端な主張」と切り捨てるのではなく、「社会全般の傾向を相当程度反映している現実があると考えた方が適切である」と述べている。

 その根拠になるのが2016年のウェブ調査で、回答者の政治イデオロギーを(アメリカ共和党的な)保守と(民主党的な)リベラルに分け、第二次世界大戦についどのように考えるかを尋ねている。その結果が下記だ(「保守」「リベラル」は私の解釈で簡略化している)。


 これを見てわかるのは、保守派(非リベラル系)であっても、半数以上(58.7%)が「第二次世界大戦における日本の行為は常に反省する必要がある」と考えていることだ。しかしそれ以上に目を引くのは、リベラル派の78.3%が「第二次世界大戦における日本の行為に関して、孫の世代、ひ孫の世代が、謝罪を続ける必要はない」に、81.4%が「第二次世界大戦における日本の行為に関して、いつまでも謝罪を求める国は行き過ぎだ」に「そう思う」と答えていることだ。驚くべきことに、この比率は保守派より多い。

 このところ、徴用工問題や自衛隊機へのレーダー照射問題で「リベラル」を自任するメディアが韓国に対して厳しい論調をとることが目立つが、それは「リベラルな読者」のこうした傾向に遅ればせながら気づいたからなのかもしれない。
 

 

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) など。最新刊は『働き方2.0vs4.0』(PHP研究所)。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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