「上司に叱責され、ミスが怖くなった」とし、必要以上の確認作業を繰り返して残業が続いていまいました写真はイメージです Photo:PIXTA

「誤りや見落としがあったのではないか」という不安。それは、日常生活で程度の差こそあれ、誰にでもありえます。けれどもミスを恐れて確認を繰り返すようになれば、長時間労働につながり、働き方改革にも逆行してしまいます。また自分が「とんでもないことをしでかしてしまうのではないか」という考えに駆り立てられ、恐れを抱いている人も少なくありません。このような「強迫症」から立ち直る秘訣(ひけつ)である「森田療法流・雲の如し発想法」を、中村敬先生が、実際の症例をもとに解説します。(談/東京慈恵会医科大学附属第三病院院長・精神医学講座教授・森田療法センター長 中村 敬、構成/慈恵大学広報推進室 高橋 誠)

几帳面で、完璧主義者
30代会社員男性の悩み

 第4回は、大手食品メーカーの研究開発部に所属する30代男性の事例をご紹介します。

 一流国立大学農学部を卒業し、競合ひしめくなかマーケットシェア6割を誇る一部上場の食品リーディングカンパニーに入社。希望の研究部門=R&D(Research & Development)に配属され、将来を嘱望されていました。新製品の提案、既存製品の食材や香辛料、油などの材料のクォリティ向上、コストダウン提案などで、顕著な成果を上げ、順風満帆なビジネスライフでした。

 元来、几帳面(きちょうめん)で、完全主義的な傾向がありました。試験に向けては準備万端で臨み、小、中、高とトップクラスの優等生でした。入社試験でも高い評価。同期入社の中でもいち早く昇進し、期待に応える活躍をしていたエリートです。

 ある日、たった1つのミスがきっかけで自信を失い、またミスをするのではないかと怖くなり、確認作業を繰り返すようになってしまったのです。

相談の内容
「上司に叱責され、ミスが怖くなった」

 年度末で仕事が多忙を極めていた折に、自分のミスで社の幹部に上申する企画書の内容に誤りが生じ、そのことで上司に叱責されました。それ以来、「誤りや見落としがないか」と、いつにも増して書類を確認するようになり、次第に確認の回数が増えました。