橘玲の日々刻々 2019年4月11日

「日本社会は大卒か非大卒かによって分断されている」
という"言ってはいけない事実"
【橘玲の日々刻々】

親子が「友だち化」している

 「ヤンチャな子ら」とはどのような生徒たちなのだろうか。知念氏の調査で興味深いのは、彼らと父親との関係だ。

 「ヤンチャな子ら」にはサーフィンやバイク、パチンコなどを趣味にしている者が多く、しばしば学校文化と対立する。髪を赤く染めボディピアスする「パンクス」や、バイクで学校に通学して停学になる生徒もいる。これは私の高校時代とさして変わらないが、驚くのは、彼らがそうした趣味をもつきっかけを親の影響だと語っていることだ。

 たとえば、スノボやサーフィンを趣味とする中島という生徒は知念氏に次のように語る。

知念:(離婚して別居している)お父さんとも連絡とってるの?
中島:スノボ行ったり、サーフィン行ったりすんで。
知念:それはお母さんとか妹も一緒に?
中島:ちゃう。おれとオトンと、オトンの友達。オカンと妹は(お父さんとは)もう関わらんといて、って言うけど、そんなん関係ないしな。
知念:じゃあ、中島は一人でオトンとスノボ行ったり、サーフィン行ったりするんだ。
中島:そう。おれの好きなこと、全部オトンからやで。

 次は、喫煙で停学になった坂田という〈ヤンチャ〉との会話だ。

知念:(坂田は喫煙で)停学なったときさ、お母さんとかなんか言ってた? 怒られた?
坂田:怒られはせーへんかったけど、注意はされた。
知念:なんて?
坂田:あんま学校で、ばれるとこで吸うなみたいな。

 中島も喫煙について、母親から「自己責任やから知らんって言われただけ。あんたの命の量が減るだけや、って言われた」と語っている。

 ここからわかるのは、親子が「友だち化」しているということだ。私は、ゆたかな社会ではひとは「成熟」する必要がなくなり、もっとも幸福だったとき(男は23歳、女は18歳)から精神年齢が変わらないのではないかと考えている。

〈ヤンチャな子ら〉の親たちも、むかしは〈ヤンチャ〉だった。子どもが高校生になれば、父親と息子(母親と娘)の関係は親子より「友だち」に近くなる。自分たちも高校時代に喫煙していたとすれば、子どもに対しても「自己責任でやれ」「バレるところで吸うな」という注意になるのは当然だろう。

 

底辺高校では教師と生徒も「友だち化」している

〈ヤンチャな子ら〉の親子関係よりさらに驚いたのは、教師との関係だ。

 次は、かろうじて2年に進級したスグルという〈ヤンチャ〉と山本先生との会話だ(シュウはスグルの友だち)。

山本:あんた知らんで。(今年は)上がれてるけど、来年またしんどくなるで。3月しんどかったん、おぼえてないん?
スグル:おれ、上がれたの、サチコのおかげやな。サチコのおかげ。
山本:いや、それはちゃうって。
シュウ:いや、サチコのおかげやで。それはあんで。

 ここに出てくる「サチコ」は、スグルの1年のときの担任だ。〈ヤンチャな子ら〉は、教師の前で他の教師を呼び捨てにするのだ、それも「親愛の情」を込めて。これは、私の世代からはとうてい考えられない。

 知念氏によればこれは特殊な事例ではなく、芸能人のケイン・コスギに似ていることを理由に「ケイン」、コアラに似ていることから「コアラ」、あるいは「〇〇ちゃん」とちゃん付けで呼ぶなど、彼らは面と向かって教師をあだ名で呼ぶか、呼び捨てにしている。さらに驚くのは、教師がこうした態度を容認するばかりか、それを利用していることだ。たとえば「コアラ」のあだ名をつけられた教師は、教室に連絡事項を掲示する際、コアラの絵や写真が挿入された張り紙を使っていた。

 知念氏は、〈ヤンチャな子ら〉は「教師に対してきわめて好意的な思いを抱いていた」と述べる。「この先生いいなと思う人はいる?」と尋ねると、彼らは一様に「いろいろ、全員」「嫌いな先生、べつにおらん」と答えるのだ。

 次は、学校に通わなくなって半年たったコウジとの会話だ。

知念:世話になった感じはあるんだ。阿部先生とかには。
コウジ:アベちゃんがいちばんやな。アベちゃん仲いいし、いつでも。
知念:あの子は、絶対辞めさせないって、ずっと言ってたよ。おれにも。
コウジ:やろうな。(電話)連絡めっちゃきとったけど、無視しとったもん。
知念:それ、とったら……。
コウジ:とったら絶対言われるもん。だからもう、あともうちょっとしたら謝りにいこうと思うもん(後略)。

 コウジは生活保護を受けて母親と二人暮らしをしていたが、二度目の1年生の2学期から母親の精神病が悪化し、家で母親から罵声を浴びせられるため友だちの家を転々とせざるを得なくなり、学校に通えなくなってしまった。安倍先生はコウジに学業を続けさせようと親身になっていたのだ。

 コウジはけっきょく高校を中退することになるが、この会話からわかるように、それは教師に反抗したり、学校という「体制」を拒絶したからではない。知念氏の調査を受け入れる度量(自信)のある学校だということはあるだろうが、〈ヤンチャな子ら〉は学校や教師にきわめて肯定的な感情をもっており、中退したあとも教師との交流(鑑別所に差し入れをもって会いにきてくれたことなど)がなつかしい思い出として語られる。

 親子だけでなく、底辺高校では教師と生徒も「友だち化」している。逆にいえば、教師は生徒に対して「権力者」として振る舞うことができなくなり、「アニキ」や「アネキ」、あるいは面倒見のいい「おじさん」「おばさん」として関係をつくろうとしているのだろう。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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