非大卒(高卒・高校中退)の若者たちのなかにも「社会的亀裂」がある
知念氏がエスノグラフィーの対象とした14人の〈ヤンチャな子ら〉のうち7人が中退、3人が3年で卒業、3人が4年で卒業、1人は高校2年で中退したのち通信制高校を卒業している。大学に進んだのは1人だけで、他は高卒・高校中退の「軽学歴」となる。
このうち2014年(21歳)時点で連絡がつく者が9人、そのうち工場や訪問介護、イベント系の会社など「見通しをもてる仕事」をしている者が6人、パチンコ屋や(本人いわく)グレーな仕事など「見通しをもてない仕事」をしている者が3人で、残りの5人は学校時代の仲間との交流も途絶えている。
高校1年で中退してそのまま「不明」になったり、1年ほど現場仕事や居酒屋、キャッチの仕事をして「不明」になったケースが多いが、14人のなかでただ1人進学した〈ヤンチャ〉も大学を中退し、そのまま「不明」になった(理由はわからない)。
高卒・高校中退後の彼らの職業生活を分けるのは「社会的ネットワーク」だ。
カズヤは高校2年で留年し、当時の恋人が妊娠したことをきっかけに中退したが、ハローワークで仕事を探しているときに「地元のツレのオカン」から工場を紹介され、給料に不満はありつつも長く働くつもりでいる。現在は結婚し、家族旅行の様子をSNSにアップしたりしているという。
中島は4年かけて高校を卒業したのち、弁当の配達のアルバイトをしていたときに彼女が妊娠し、「幼なじみ。小学校から、ずっと仲ええ感じの」友人の紹介でエレベーター補修会社の正社員になった。そこは通常は特殊な免許をもっている工業科の卒業生しか採用しないが、その友人が「仕事できるし、仲ええし部長と」というコネを使って特別に採用された。給料もよく、ボーナスもあり、無事に子どもも生まれて親になった。
それに対して、母子家庭で生活保護を受給し、母親が精神病だったコウジは、高校中退後、「将来、居酒屋を経営する」という夢を抱いて現場仕事と居酒屋を兼業して寝る間もないほど働くが、1年ほどして「夜の仕事」をしている、「好きな子がおる」と語ってから誰とも連絡がとれなくなった。
小学校低学年で両親が離婚し、生活保護を受けて母親と暮らしていたダイは、高校3年の就活で住み込みの会社に採用されたものの2カ月ほどで辞め、たまに家に来る父親のツテで現場仕事に就くものの続かず、「飲み屋で知り合った」男の紹介で合法・違法のあいまいな「グレー」な仕事に携わるようになった。
こうした事例から知念氏は、大卒/非大卒の分断だけでなく、非大卒(高卒・高校中退)の若者たちのなかにも「社会的亀裂」があることを発見する。
この亀裂の一方の側には、「ちっちゃい頃からの友達」「幼なじみ」「地元の子」という言葉が頻出する〈ヤンチャ〉がいる。彼らは親が地元出身で、幼い頃からずっと地元で暮らしており、仕事探しや、場合によっては住まいを探す際にも「地元ネットワーク」を使って大人になっていく。
亀裂のもう一方の側には、家庭が不安定で小さい頃から住まいを転々とし、たまたまこの地域の高校に来た〈ヤンチャ〉がいる。彼らは「地元」とほとんどつながりがなく、中学の頃にいじめられた経験があり、その後の同級生との関係も不安定なものだった。そのため、たまたま飲んで意気投合した居酒屋の店長の下で働くというような「即興的なネットワーク」に頼らざるを得なくなる。これは「レッグス」たちのあいだの社会資本(家族や知り合いのネットワーク)の重要性を示しているのだろう。
これ以外にも、知念氏の6年間にわたる調査によって、〈ヤンチャな子ら〉がどのように人生を構築しようとしているのかが見えてくる。わたしたちの社会の実相を知るためにも一読を勧めたい。
橘 玲(たちばな あきら)
作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) など。最新刊は『働き方2.0vs4.0』(PHP研究所)。
●橘玲『世の中の仕組みと人生のデザイン』を毎週木曜日に配信中!(20日間無料体験中)





