これまで述べてきたように、2001年から06年までの量的緩和政策は、物価動向に何の影響を与えることもできなかった。

 日本の長期不況の原因は金融政策にあるとし、緩和政策を取るべきだとの意見は、外国からも日本の政策当局に寄せられた批判だった。しかし、量的緩和政策の結果を見て、「量的緩和政策は効果がなかった」と認めざるをえなくなった。

「日本の量的緩和政策は効果がなかった」

 アダム・ポーゼンは、量的緩和を強硬に主張した1人だが、効果がなかったことを2010年にLSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス)で行なったスピーチの中で認め、つぎのように述べている(注1)。

・日本経済が2002-03年以降に回復した後の期間においても、限定されたデフレが継続したのは、驚くべきことである。これは、日本経済をマクロ的により深く分析すべきことを意味する。

・「日本病」を特殊なものとして考えるのでなく、伝統的なケインズ経済学も含めた教科書的な分析で扱えるものと見なすべきである。

・1990年代以降の日本経済の不調は、バブル崩壊で必然的にもたらされたものではない。人口減少によるものでもない。

・量的緩和が行なわれたにもかかわらず、物価上昇率はマイナスを継続した。

・需給ギャップが大きかったことを的確に認識できなかった。しかし、それほど大きいなら、なぜデフレが加速せず一定率でとどまったのか、わからない。

・貨幣供給の増加は十分だった。

・デフレのコストは予想したほど大きなものではなかった。

・われわれはデフレをよく理解していなかった。「紙幣を印刷すればインフレになる」というような機械的なマネタリズムの考えを持つべきではない。

・日本の量的緩和は、「引き締めの恐怖を取り除いた」という意味で正しいサインを送った。しかし、インフレ率を高めることができなかっただけでなく、経済に短期的な影響を与えることもできなかった。

 ポーゼンは、上記のスピーチに先立ち、イングランド銀行の金融政策委員会(MPC)メンバーに任命された際の7月7日の英議会財務委員会で、LSEのスピーチと同趣旨の発言をしている(注2)。