平成の日本の労働市場では若い男性の雇用を破壊することで
中高年(団塊の世代)の雇用が守られた
【橘玲の日々刻々】

2019年4月19日公開(2019年4月23日更新)
橘玲

専業主婦が新たに労働市場に参入してきた

 経済的な大変動があった時期にも「全体としては正社員の雇用は守られた」としても、若者層では状況は異なるかもしれない。そこで次に、22~29歳の女性の就労状況の変化を見てみよう。

 ここでまず目につくのは、非正規で働く若い女性の割合が1982年の9%から2007年の22%まで大幅に増えていることだ。1997年のバブル崩壊以降の10年間でも、11%から22%へと2倍になっている。

 それに対して正社員比率は、1992年(バブル期)の50%から2007年には43%まで7%減っている。通説のように、たしかに正規が減って非正規が増えている。

 これは間違いないのだが、よく見ると、若い女性の正社員比率は1982年に40%、1987年は44%で、2007年の43%はこれとほとんど変わらない。「日本企業では若い女性の正社員比率(4割)が若い男性(6~7割)に比べて大幅に低い」ということを強調したうえでいうならば、25年間の20~29歳女性の就業業況は、「もともと低かった正社員比率がバブル景気で押し上げられ、バブル崩壊とともに元の水準に戻った」ということになる。

 だとしたら、若い女性の非正規比率はなぜ爆発的に増えたのか。その理由も図を見れば明らかで、「無業者」が1982年の43%から2007年の26%へと大幅に減ったからだ。

 労働市場に新たに参入した若い女性の「無業者」の多くは専業主婦だろう。彼女たちが働こうと思ったとき、日本企業では中途採用の正社員のハードルがきわめて高いため、非正規になるしかなかったのだ。

若い男性(20代)は明らかにバブル崩壊で非正規が増加している

 20代女性の就労状況を見ると、たしかにバブル崩壊で正社員比率は減ったものの、非正規が増えたのは専業主婦が労働市場に参入したからだった。これもまた、通説とは異なる「事実」だ。

 だが、「雇用破壊によって正社員が減り非正規が増えた」という通説がすべて間違っているわけではない。そこで次に、22~29歳男性の25年間の就労状況を見てみよう。

 20代男性の正社員比率は1982年に75%で、高卒・大卒の4人に3人は正社員として採用された。しかしその割合は1992年(バブル期)の77%から急激に下がり、2007年には62%になっている。若い男性では、明らかにバブル崩壊で正社員が減っているのだ。

 その代わり増えたのが非正規で、1992年までは4%だったが、2007年には15%と4倍ちかくなっている。「正社員の雇用が破壊され、非正規に置き換えられた」という通説は、まさにこの世代(20代男性)に当てはまる。

 それと同時に目を引くのが、1992年に10%だった無業者の割合が2007年には16%まで増えていることだ。ここには失業者(働く意思があり求職活動をしている者)も含まれるが、それ以外は「働く意思はあるが求職活動はしていない者」か「働く意思もない者(そのなかの一定層は「ひきこもり」)」だ。「就職氷河期」に大学を卒業し非正規や無業者になった若者たちは「ロスジェネ(失われた世代)」と呼ばれている。

 ここまでの話をまとめると、バブル前夜からバブル崩壊までの25年間で、通説とは異なって「全体としては」正社員の雇用は守られ、若い女性ではたしかに非正規が大きく増えたものの、その多くは専業主婦だった。その一方で、若い男性では急激な「雇用破壊」が起きたことになる。

 だとしたら、結論はひとつしかない。平成の日本の労働市場では、若者(とりわけ男性)の雇用を破壊することで、中高年(団塊の世代)の雇用が守られたのだ。

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