ヨーロッパの中央に位置するベルギーの首都・ブリュッセル。その中心地であるグラン・プラスは、歴史的な建築物や観光名所が多く、訪れる者を魅了して止まない落ち着いた街だ。

 おしゃれなカフェや土産物屋が所狭しと軒を並べる石畳の路地は、休日ともなれば深夜まで多くの家族連れやカップルで溢れ返る。10月上旬に筆者が訪れた時点では、今まさに足許で起きている「金融危機」への不安など、微塵も感じられない賑わいぶりだった。

 街中には、経営悪化により、9月下旬にベネルクス3国(オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)によって国有化されたばかりの金融グループ・フォルティスの店舗が散見された。

 世界で9万人近くもの従業員を抱える大手金融グループの経営危機は、EU(欧州連合)にとってまさに一大事。フォルティスには、ECB(欧州中央銀行)の主導で各国から総額112億ユーロもの公的資金が注入され、危機一髪で救済された。直近では、域内先進国の銀行がグループ企業の一部を引き受けようとする動きも出ている。

 このフォルティスのケースを見ても明らかなように、昨年から続く米国発の金融危機の悪影響が、ここに来て欧州でも本格化している。それはすでに実体経済にも暗い影を落としており、この9月には、EUの欧州委員会が2008年のEUの実質成長率見通しを、これまでの2.0%から1.4%へと下方修正した。

 成長率は09年も1.8%程度に留まると見られており、2.8%もの成長を遂げていた07年と比べれば、その「減速ぶり」は著しいと言えるだろう。

 しかし、街行く人々はそのような危機感とはまるで無縁に見える。まだ実生活レベルでの景況感がそれ程悪化していないせいもあるだろうが、華やかな町並みの中で忘れ去られたようにポツンとたたずむフォルティスの店舗が、妙に印象に残った。

 そのグラン・プラスから地下鉄でわずか15分ほどのところに、EUの拠点はある。EUは、加盟国の政府首脳らによる「欧州理事会」(欧州連合首脳会議)の下に、意思決定機関の「欧州連合理事会」、行政機関の「欧州委員会」、立法機関の「欧州議会」が置かれ、相互補完しながら全体の運営に当たるというシステムになっている。「欧州裁判所」という司法機関もあるというから、その統治機構は一国の政府並みだ。