日本は教訓を活かせるか?

台湾屈指の観光スポット、野柳地質公園
野柳地質公園は台湾屈指の観光スポットであると同時に、市民のやすらぎの場でもあった Photo by K.H.

 筆者は台湾の最北端・野柳を訪れた。海岸沿いに整備された野柳地質公園には、「美人頭」で知られる不思議な形をした岩がある。ここもまた台湾屈指の人気観光スポットだが、中国人客が大挙して訪れた2015年前後には、“自然が残した貴重な遺産”が危機に瀕した。直接触ったり落書きを残したりと、無神経な行為に台湾市民はハラハラさせられたのである。

 実際、現場では複数の監視員が目を光らせていた。世界各国から集まった観光客はスマホ撮影に夢中で、中には岩に触る、座る、もたれるなどのポーズを取る者もいる。すると監視員がホイッスルをけたたましく鳴らし、注意を喚起するのだった。

監視員のホイッスルなしには秩序は維持できない
監視員のホイッスルなしには秩序は維持できない Photo by K.H.

「触るな」とロープを張り巡らせれば、自然の景観を損なうことにもなる。張り紙を貼り巡らせれば風情を失う。だが、放置すれば自然遺産は取り返しのつかない危機に瀕する。野柳地質公園をめぐっては、2015年前後から「風景が死んでしまった」と台湾市民の声が上がるようになった。

 心ない言葉にも傷ついた。

「『(大陸に比べて)遅れている』『(見るべきものは)何もない』、『何も発展していない』――。台湾に大陸の観光客が来なくなったのは、こうした口コミもあるでしょう」

 台湾の人々が10年あまりのインバウンドで学んだことがある。それは、政治リスクゆえ「タマゴは一つのカゴに盛るな」という投資分散の考え方と、「ブームはいつまでも続かない」という現実だった。そして、市民の心には「数を受け入れれば、相手に冷淡にならざるを得ない」という後悔も残った。

「インバウンドとは数ではなく質」――台湾の人々が身をもって経験したこの教訓は、今の日本にも通じるものがある。

(ジャーナリスト、アジア・ビズ・フォーラム主宰 姫田小夏)