「ベスト・バイ」の売上高が10%増加――。

 ベスト・バイは、全米に1023店舗、世界中で30942拠点と16万5000人の従業員を抱える巨大な家電量販チェーン。同社が先日発表した第4四半期(2008年12月―2009年2月)の業績に、多くの関係者が耳を疑った。利益こそ下がったものの、売上高が前年同期で約10%増加したからだ。消費者の財布の口がしっかりと閉じたこんな時に、なぜ売り上げが伸びるのか。ベスト・バイ自身すら、同期の売上高は5~15%落ち込むと予想していたはずだった。

 売り上げの伸びの中味は、フラットパネルTVとラップトップ・コンピュータである。業界のアナリストらは、MP3プレーヤーやカムコーダーなどと比べて、これらの製品は消費者の意識の中で必需品になっていて、不景気の時にも強いことが理由だろうと語っている。また、外出を控えて「家ごもり」をする家族がみんなで使える製品として、人気を保っているという声もある。中には、このニュースで消費低迷は底を打ったと気の早い分析をしている経済専門家もいる。

 だが、いずれにしても同業他社がつぎつぎと姿を消していく中で、これはベスト・バイの強剛さを示した出来事と言えるだろう。コンピュUSA、サーキットシティー、トゥウィーター、シャーパー・イメージなど、ここ数年でコンピュータ小売りや量販チェーンが次々と倒産の憂き目に遭ってきた。

 殊に、倉庫のような巨大店舗を構えるベスト・バイのようなチェーンは「ビッグ・ボックス」とも呼ばれ、一方では、ウォルマートやターゲットなど徹底した値引き手法で攻め込むスーパー・チェーンに客を取られ、他方ではアマゾンなどオンライン・ショップの効率化経営に太刀打ちできない。ベスト・バイには、いったいどんな秘密があったのか。

 がっかりされるだろうが、実はそんな秘密はない。あったのは「お客様第一」の経営コンセプトだけなのである。

 日本の商売なら当たり前のことに聞こえるだろうが、アメリカの家電チェーン店でこれをうまく実現できているところはほとんどないのが実情だ。しかもベスト・バイが並外れているのは、この「お客様第一」をあの手この手の新手法で常に実験し続けていることである。