橘玲の日々刻々 2019年5月9日

「教育」の本質は「格差拡大装置」。
「教育は無条件に素晴らしい」という強迫観念をそろそろ見直すべき
【橘玲の日々刻々】

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 「学歴社会」である現代日本の最大のタブーは、「教育が格差を拡大させている」という不都合な真実だ。

 以下は福沢諭吉『学問のすすめ』の名高い一節だ。

「人は生まれながらにして貴賤貧富の別なし。ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるなり。」

 これは一般には、「学問に勤めれば成功できる」という意味だと解釈されている。だが逆に言えば、「「貧人」「下人」なのは学ばなかった者の自己責任」ということになるだろう。

 「教育」の本質は「格差拡大装置」であり、福沢諭吉はそのことを正しく理解していた。

部落の若者たちは約20%が中卒以下の低学歴

 これまで2回にわたって、「ヤンチャ」「ヤンキー」と呼ばれる非大卒(軽学歴)の若者の生活を追った研究を紹介してきた。

[参考記事]
●「日本社会は大卒か非大卒かによって分断されている」という"言ってはいけない事実"
●「しーじゃとうっとぅ」は沖縄のヤンキーの絶対の掟であり、桎梏

 今回は(社)部落解放・人権研究所編『排除される若者たち フリーターと不平等の再生産』(解放出版社)から、大学に進学せずフリーターとして働く若者たちの声を紹介してみたい。

 フリーターやニートが「怠けている」「自覚がない」などとバッシングされていた2000年代初頭、関西の社会学者らを中心に、その実態を知るべく「大阪フリーター調査」が行なわれた。本書はその記録で、2003年春から初夏にかけて40人の若者に話を聞いている。

 この調査を主導したのは部落解放・人権研究所で、インタビューに応じたフリーター状況にある若者のなかには被差別部落出身者が多いが、「進学者だけでなく就職者や無業者が比較的多く出ている」大阪府立高校(進路多様校)からも生徒・卒業生を紹介してもらったという。

 年齢は15~24歳、性別は男女20名ずつで、最終学歴(在学中も含む)は中卒が7名、高校中退が5名(うち定時制1名)、定時制および通信制高校在学中が4名、高卒が19名(うち定時制2名)、高卒後専門学校中退が1名、高卒後専門学校卒が1名、短大卒が2名、大卒が1名となっている。

 序章の「フリーター研究の動向と本書の意義」(内田龍史・久保由子)で指摘されているが、大阪の部落の15~34歳の若年失業率(2001年)は9.1%と大阪府平均の7.6%より高い。とりわけ15~19歳の失業率は男が31.3%、女が20.6%で、高校に通っていない男子の3人に1人、女子の5人に1人に職がなかった。

 部落の若者の高い失業率の一因として考えられるのが低学歴傾向で、最終学歴が中卒以下の者が20~24歳で18.2%(大阪府7.1%)、25~29歳で20.7%(同6.6%)、30~34歳で24.4%(同6.9%)となっている。

 インタビューのなかで、結婚差別を受けたり、直接面と向かって差別発言をされたという体験が語られてはいるものの、「部落出身であることが、進路選択に影響を与えたと語られる事例は少ない」とされる。

 実際、部落出身者であるかどうかにかかわらず、若者たちの語りはとてもよく似ている。彼ら/彼女たちは「ホカチュウ」と呼ばれる他の中学の友だちとも積極的に交遊しており、そこに「部落出身」という意識は見られない。筆者たちが指摘するように、この本に登場するのはごくふつうの若者たちで、「ムラ」(多くの部落出身者は自分が居住する部落をこう呼ぶ)のネットワークによって、通常は大人が関係をつくることが難しい「軽学歴フリーター」へのインタビューが可能になったということだろう。

自らの「意思」でドロップアウトしていく若者たち

 「遊びと不平等の再生産」(第3章)で社会学者の西田芳正氏は、「親によるコントロールの機能不全」について述べている。

 家庭について訊くと、「「勉強ってあんまり言われへんかった」「しつけ? あまり言われない。覚えていない」という言葉が返ってくることから、西田氏は当初、親によるコントロールの欠如=放任主義が若者たちを遊びの世界に向かわせるのではないかと考えていた。だが、地域の親や若者たちの状況をよく知る女性から指摘を受けて、こうした解釈は修正を迫られることになる。

 地域の世話役的なその女性は、西田氏にこう説明した。

(「あの親もこの親も」という形で対象者となった家庭を例示して)みんな「うるさい」ていうか、「やいやい」言う親やねんで。聞いてないねんやん、子ども達が。で、守らへんもん、家庭のルールなんて守らへんし。お母ちゃんの言うことなんか全然聞いてないもん。(略)何でそう言うんやっていう説明も親が子どもにしてないから、同じやねん。言っても言っても繰り返しで、別にどうってことないもん。」

 実際、インタビューのなかでも次のような発言が頻出する(【 】内はインタビュアーの言葉)。

「門限とかめっちゃ厳しかったですよ。破りまくっていましたけど。【そうしたら、その度に。】めちゃめちゃ怒られましたね。【闘うというよりは、黙って聞いとくという感じ。】そんな感じですね。何言っても怒られるんで。ひたすら終わるまでじっと、すみませんみたいな感じでしたね。」[19歳・女性・高卒]

「最初のうちはだから「学校(高校)行けー」とかは言うてきましたけど、ね、やっぱり女の子じゃないんで。あのー、父親もね、もともと大阪の方の育ちだから、まぁ悪さをしてきた人間やから、まぁ「お前は好きなようにせぇ」と。」[20歳・男性・中卒]

 親の多くは高卒以下の学歴で、自分たちが苦労してきたことから、子どもたちに強く説教し(場合によっては体罰を加え)学校に行かせようとするが、それでも「遊び」の世界に入っていくのを止めることができない。

 これを受けて西田氏は、「家庭の貧困や勉強できないことへの不満が「遊び」の世界に入る際に大きな契機になっていないのではないか」と、貧困や学校教育に原因を求める「通説」に疑問を呈する。

 若者たちは、中卒や高校中退の学歴が将来不利になることを親や教師からさんざん聞かされながらも、自らの「意思」でドロップアウトしていく。「その背景には、経済成長と福祉政策によって貧困層にもある程度の生活水準、豊かさが享受されていることが条件になっているのではないだろうか」と西田氏は述べている。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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