日本式人事異動システムの
メリットを説明しているか

 もう1つ大事なのは、いろんな部署を経験させる日本式の人事異動システムのメリットを説明することである。

 今回の事例のような問題が起こるのを防ぐため、研修などで初めに説明しておくとよいだろう。

 近頃は、グローバル化を理由に、部門異動がほとんどない欧米式の人事システム(例えば、経理で入社すればずっと経理というように専門職として採用されるシステム)がいかにも合理的でよいといった印象を与える情報がメディアで流される。欧米コンプレックスの強い日本人は、すぐそれを真に受けてしまいがちだ。

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 ところが欧米式は、雇用主にとって都合のいいシステムに過ぎない。労働市場の流動化によりその部門に有能な人が入ってきたために不要だと判断されたり、あるいは採算の悪化でその部門が切り捨てられたりといったようなことが起こった場合、他の部署で生き残ることができない。いわば、プロ野球選手やプロサッカー選手のような人生を歩まなければならないのである。

 それに対して、これまでの日本式のシステムは、様々な職種を経験させることで、会社全体を知ってもらうというだけでなく、今の部門がいらなくなったり、より有能な人材が現れたりしても、別の部門で力を発揮してもらうということができる。

 A社長はその後、新人の追加研修を実施した。実務の話だけでなく、日本式の人事異動システムのメリットに触れながら、視野が広がり将来やりたい仕事のプロとして成長していくためにはいろんな経験を積むことがいかに重要であるかを懇々と説き諭したのである。

 そしてCさんと個別面談を行い、追加研修で話したことを再確認したところ、Cさんは納得したのである。Cさんはその後、いろんな経験を積みながら日々の業務に励んでいるとのことであった。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。