様々な条件を考慮しつつ決断をするというのは、人間にとって負荷がかかることです。市場動向や金利情勢、さらには投資したい企業の業績見通しなど、株式投資では判断すべき情報が多岐にわたる。その心理的負担から逃れるために「必勝銘柄」を聞きたがる投資家は少なくない Photo:PIXTA

専門家に「必勝銘柄」を
教えてもらいたがる投資家たち

 我々が生活をしていく中で「何かを選ぶこと」というのは、日常的に行っていることだ。朝、会社へ行けば、まず何から仕事に手をつけようかとか、昼になるとランチには何を食べようかといったごく小さな出来事から、就職先や結婚相手をどうするか、といった人生における重大な決定に至るまで、人間の生活というのはまさに選択することにあふれている。

 これは株式投資においても同様で、銘柄、売り買い、そしてそのタイミングといった具合に“選択の連続”なのである。ところがこの「選択する」というプロセスにおいて、いくつもの心理的なわなが待ち構えているのだ。

 まず株式投資を始めるにあたって、最初に考えなければならないことは“何を買うか”ということ、すなわち「銘柄の選択」だ。そして次に考えるべきことは“それをいつ買えばいいのか?”、つまり「買い時の選択」ということになる。買った後は当然価格が変動するわけであるから、今度は“それをいつ売ればいいのか?”という「売り時の選択」が待っている。

 こうしてさまざまな選択をするにあたって、それを判断するのはかなり心理的に負担が大きいといえるだろう。なぜならこれら投資の判断をするためには、さまざまな情報を収集して、その内容を分析しなければならないからだ。しかも、いくら分析して考えたところで、株価というものは必ずしも理屈通り、予想通りに動くわけではない。先行きが不確実な状況下での判断が求められるというのは、常に心理的な負担があり、ストレスを感じるものだ。

 中にはそういうことが面倒で、ほとんどドタ勘で売買をしている投資家だっているだろう。ただ、どんな方法で判断するにせよ、少なくとも自己責任においてやる限りは、こうして自分自身で考えて“選択”することを避けて通るわけにはいかない。

 ところが往々にして投資家の方たちの中には、こういう面倒なことを考えるのが嫌で、その判断を人に委ねたがる人たちがいる。というよりもむしろ、そういうタイプの投資家の方が多いかもしれない。

 筆者もたまに株式セミナーに行くことがあるが、そんな時によく目にするのが、以下のような光景だ。登壇者が景気やセクター別の動向、金利や為替といった話をしている時はぐっすり寝込んでいる参加者が、「では、以上の背景を踏まえて注目銘柄についてお話しします」といった途端にガバッと起き上がって、熱心にメモを取り始める。先日もあるアナリストに話を聞いた時に、同じようなことはよくあると言っていた。セミナー終了後に出てくる質問の中には「銘柄だけ教えてください、理由はいりません!」というものさえあるという。