トランプ大統領米中貿易戦争に乗じて、米国に中国を叩いてもらいたいと内心思う日本人は少なくないだろう。しかし、希望的観測にすがっていては判断を誤る。Photo:EPA=JIJI

 米中貿易戦争を巡っては米国が有利であり、打つ手がない中国はいずれ妥協せざるを得ない、という論調が多い。そうであってほしいという願いが含まれているようにも見える。

 中国では知的財産権がきちんと保護されておらず、先端技術やノウハウが中国に流出しているのではないか、という不満は日本も共有している。尖閣問題で緊張が高まった際、中国が日本へのレアアースの輸出を制限したことも記憶に新しい。中国がWTOの自由貿易のルールを尊重すると言っても、真に受ける日本人は少ないだろう。

 この際、米国に中国を叩いてもらいたいと内心思っている日本人も少なくなさそうだ。しかし、希望的観測にすがっていては判断を誤る。米中の対立が長引けば、日本のみならず世界経済全体に負の影響をもたらすだろう。

「米国有利」は希望的観測
摩擦と戦争では次元が違う

 米中貿易戦争を巡る希望的観測は、いくつかの誤解によってもたらされている。まず、米中貿易戦争と1980年代、90年代の日米貿易摩擦は違う。日本も中国も、経済規模が米国の6割程度にまで拡大し、巨額の対米黒字を計上していたという点では同じだ。

 しかし、米国の安全保障の傘の下にいる日本が、米国と真っ向から対立することなどできない。日米貿易摩擦は、同盟国間の摩擦にすぎず、米国に守られている日本は米国側の厳しい要求を呑まざるを得なかった。

 これに対し、中国と米国は武力行使以外の様々な分野で戦争をしている。貿易戦争も米中間の対立の一分野にすぎない。戦争は一度始めてしまうと簡単には終わらない。互いに負けられないからだ。

 冒頭でも述べたように、「米中貿易戦争は米国側が有利」という報道が多い。米国は中国から5000億ドル以上も輸入している。そのうち2500億ドルに高関税を適用しており、残りの2500億ドル以上についても高関税の適用を検討している。

 一方、中国は米国から1500億ドルしか輸入していない。高関税を適用しているのは1100億ドルと米国より少なく、残りは400億ドルにすぎない。これをもって、中国の打つ手は限られており、米国有利と考えられているようだ。しかし、たくさん輸入して貿易赤字が大きい国の方が貿易戦争は有利である、という説明にあまり説得力はない。