ワシントンで行われたオバマ大統領の就任式で、ミシェル夫人が着用していたニナ・リッチのカーディガンが注目されている。なんとニット糸は山形県の佐藤繊維が製造した国産。日本の繊維技術にスポットライトが当たり、世界に発信されたこの映像がきっかけで、同社は今、引く手あまたの商談が舞い込みその対応に追われている。

 「次はうちが……」と夢を抱く企業も少なくない。新潟県五泉市の企業もその一つだ。五泉市もまた高級ニットの産地、その歴史は半世紀近くにも及ぶ。最新鋭のコンピューター編機を駆使したそのニット製品は、海外製品と比べ発想も感性も違う。ニット製品といえば、モコモコしたセーターを想像しがちだが、五泉市の技術を駆使すれば、ニットとは思えない薄手でかつ繊細な風合いを表現できてしまう。中国はおろか、世界的にもまず存在しない技術だといっていいだろう。

「日本ブランド」ではなく
中国人デザイナーを前面に

 この「ジャパンクオリティ」が世界市場で受け入れられないわけがない――。そんな確信のもと、五泉市の丸金商事が海外への売り込みに動き出した(*1)。照準は上海市場。今や1億円以上の資産を持つ人たちが5000万人も存在すると言われる中国、上海にはその富裕層が集まる。上海のファッション市場は、シャネル、プラダなどのラグジュアリーブランドの「アッパー」が先行して牽引し、最近になってH&M、ユニクロらが「ロワー」を形成し始めた。そんな段階にあって、実は真ん中の「ミドル」が空白といった状態で、進出の好機も到来している。

 丸金商事の事業展開にあたって商品化計画・プロモーションなどを行うIBD事業開発研究所株式会社(東京都)代表取締役の島田浩司さんはこう語る。「それは日本のファッションの流れに酷似する。60年代以降、ファッションといえば海外ブランドでしかなかった。そんな高級マーケットに、80年代になってようやくその中間価格帯を行く、イッセイミヤケやKENZOなどのデザイナーズブランドが生まれた。上海にはまだそれがないし、まさにこれからなんです」

 その彼が目を付けたのが、中国人デザイナーの謝家斎さん(新疆ウイグル自治区の出身)だ。謝さんを起用し、この中間価格帯にズバリはまる高級感あるドレスをデザインしてもらおうというのだ。そんな計画を披露する記者会見が3月19日に行われる(*2)。ターゲットは日常的に宴会やパーティが繰り返される新興の富裕層だ。

(*1)同事業は地域産業資源事業計画((独)中小企業基盤整備機構)の認定を受けている。
(*2)09年3月19日、上海世貿商城(上海市)で記者会見を行う予定。