スピードアップ工事を申請した北海道新幹線スピードアップが増収増益につながっても、JR北海道が鉄道・運輸機構に支払う貸付料が高ければ、経営再建の見通しは暗いものになってしまう Photo:PIXTA

JR北海道が建設中の北海道新幹線、新函館北斗~札幌間を時速320キロに引き上げるための工事を国土交通省に申請した。時速引き上げは北海道新幹線の増収増益に寄与し、JR北海道の経営は上向くのだろうか?(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

今さら時速320キロを目指す!?
整備新幹線の不合理

 2030年度に予定されている北海道新幹線札幌開業に向けて、新幹線高速化に向けた動きが加速している。

 JR北海道は5月13日、最高速度時速260キロとして建設中の北海道新幹線の新函館北斗~札幌間を時速320キロで走行可能とするための工事を、JR北海道の負担で実施したいとして国土交通省に要請した。

 また今年2月にはJR東日本の深沢祐二社長が、東北新幹線の盛岡~新青森間で、現在の時速260キロから時速320キロへのスピードアップを検討していることを認めた。

 同じ東北新幹線でも、宇都宮~盛岡間では、既に2013年3月からE5系「はやぶさ」による時速320キロ運転が行われており、さらに同区間の最高速度を時速360キロに引き上げるために高速試験車両E956形「ALFA-X(アルファエックス)」を製造して、今年5月10日から試験走行を開始している。

 1982年に開業した区間で時速360キロを目指した挑戦が始まったというのに、新しく建設される区間の最高速度が時速260キロというのは、いかにも不合理な話のように思えるが、この構図を理解するためには「整備新幹線」の成り立ちについて知る必要がある。

 東海道・山陽新幹線以降の新幹線は、1970年に制定された「全国新幹線鉄道整備法(全幹法)」に基づいて整備が進められてきた。1971年に東北新幹線、上越新幹線、成田新幹線(後に中止)、1972年に北海道新幹線、北陸新幹線、九州新幹線の基本計画が定められ、建設に向けた「整備計画」が決定されるが、ここでオイルショックが発生して日本経済は大きな曲がり角を迎えることになる。同時に、1964年以降赤字に転落していた国鉄の経営も加速度的に悪化する。

 着工済みの東北新幹線、上越新幹線の建設は継続されるも、成田新幹線は沿線の反対により中止に追い込まれた。政府は公共事業の削減を決定し、以降の路線計画は凍結されることになった。こうして、整備計画がありながら未着工の「東北新幹線(盛岡~青森間)」「北海道新幹線」「北陸新幹線」「九州新幹線(鹿児島ルート)」「九州新幹線(長崎ルート)」の5路線を「整備新幹線」と呼ぶようになったのである。