アラブ 2019年5月30日

[教えて! 尚子先生]
なぜ今、イラク戦争関連のアメリカ映画が立て続けに公開されているか?
イラク戦争関連映画『記者たち 衝撃と畏怖の真実』と『バイス』から【中東・イスラム初級講座・第47回】

アメリカ副大統領ディック・チェイニーの半生を描いた『バイス』

『バイス』はブッシュ大統領(息子)の政権下で副大統領をつとめた、ディック・チェイニーの半生を描いた映画です。『バイス』には副大統領(バイス・プレジデント)の「副」という意味と、バイスという形容詞の「邪悪な」とか「悪徳」という意味もあり、この2つの意味がタイトルにこめられています。

 この映画によれば、チェイニーはそもそも弁舌さわやかな秀才タイプではなく、大学を中退し、飲んだくれて喧嘩をしては警察にやっかいになる「やんちゃな落ちこぼれ」だったようです。

 こんなダメ男のお尻を思いっきりひっぱたいて更生させたのが、後に彼の妻となる女性でした。彼女は美人で優秀、演説もチェイニー本人よりもずっと上手だったようです。彼女は「別れ話」をチラつかせてチェイニーを奮起させ、彼をホワイトハウスでのインターンから、最終的には政界入りさせたと映画では描かれています。
 
 チェイニーはラムズフェルド(後に彼はブッシュ政権下の国防長官となる)に気に入られて順調に出世し、フォード政権では若くして大統領補佐官に抜擢されました。その後も下院議員に当選、そののちのブッシュ(父)政権でも国防長官を務めました。

 残るポジションは大統領のみというところまで出世しましたが、彼は心臓病を患っていることが明らかとなり、さらには家庭の事情から、共和党の大統領候補者選への出馬を断念せざるをえませんでした。ブッシュ(父)以後の民主党政権下では、彼は石油掘削機会社のCEOを務め、このまま政界から引退するかに見えました。
 
 ところが、ブッシュ(息子)から副大統領候補としての誘いを受けます。この提案に対して、チェイニーの妻は「副大統領なんて大統領が死ぬのを待つだけの仕事でしょう?」と否定的でした。
 
 しかし、彼自身はこの提案を受け、みごとに選挙戦を乗りきって副大統領に就任しました。就任後、彼は法律を都合の良いように解釈させながら、副大統領の権限を最大限にまで拡大することを試みます。チェイニーにとって、大統領がワシントンを離れていたときに発生した9・11事件は、まさに権力拡大の好機でしかなかったのです。
 
 9・11事件以降、チェイニーやラムズフェルドは愛国心のたかまりと、テロに対する憤りという国民感情をどうおさめていくべきなのか考えます。一般市民へのヒヤリング調査などを行なった結果、国民が戸惑いを覚えている点は、標的のさだまらないテロリストとの戦いという未曽有の状態にあることだという結論に達します。

 彼らが考え出した秘策は、敵をテロリストから「国家」に限定して明確化させ、以前と同じ状態に戻し、わかりやすく「報復」という国民感情を煽ることでした。この映画によれば、そのスケープゴートの「国家」に選ばれたのが、ブッシュ大統領と因縁の深いイラクであったというのです。こうして、政府の指導者たちの指示によって、「大量破壊兵器の保持」という戦争開始のための大義名分と、それに基づく「証拠」がねつ造されていったのでした。


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