あの国のあの料理が食べたい…そんなふうに思うのは、カジュアルな日常食であることが多くないでしょうか。そして、それを東京で食べるならどこでしょう? 3人のグルメライターおすすめの一皿を、クロスレビューを交えて聞いてみました。

森脇慶子さんおすすめの「サエキ飯店」[広東料理]

東京で味わえる世界のローカルフードBEST3上/「ハトの丸煮」4000円。これで2~3人分。醤油、氷砂糖、八角、桂皮に玖瑰露酒(ハマナスの酒)を合わせたタレで、ハトを丸のまま14~15分煮込んだ一品。現地ではしっかり火を入れるが、しっとりとジューシーな味わいを楽しんでほしいとやや浅めの火入れにしています。
左/「ハムユイ豚肉蒸しハンバーグ」1200円。香港では、家庭でもつくる定番的ご飯のおかず。豚は肩ロースとバラ肉を使用。魚を塩漬けにして半発酵させてから天日干しで乾燥させた「ハムユイ」独特の香りとうま味が、脂の甘みを含んだ豚の肉汁と混じりあい醸し出すおいしさは、ご飯を呼ぶこと請け合い。ご飯はジャスミンライス。
Photo by Hisashi Okamoto

 食文化の伝播(でんぱ)は、高から低へと順に伝わっていくもの。まず、その国の高級料理が伝わり、浸透していくにつれ日常的な味へと興味の幅は広がっていきます。現地の人が日々食べている料理にこそ信実の味があるからです。

 今、この東京の食シーンで、そんな状況にあるのがまさに中華でしょう。この4月3日、目黒にオープンした「サエキ飯店」も然り。香港に心酔した佐伯悠太郎シェフが、肌で覚えた現地の味をベースに、自らの感性を加味した広東の普段着の味をしなやかに表現しています。

 例えば、"発酵からし菜とモツの煮込"。佐伯シェフいわく「ビストロみたいに、前菜に豆の煮込みが欲しいなと思って大豆を煮込んでいたら、焼き鳥屋のモツ煮を思いだし…」と話します。それによりでき上がったのが、香港の大衆食堂でおなじみの潮州菜(ちょうしゅうな)と、思考回路はグローバルながら落としどころはちゃんと広東料理になっているあたりが佐伯シェフたるところ。