オープンソース・ソフトが登場し、ネットワーク・インフラ、ハードウェアの価格が下がったことによって、今は以前と比べものにならないくらい安い資金でテクノロジーのスタートアップ(新興企業)を起業することができるようになっている。

 そしてこの変化は、ベンチャー・キャピタリストとスタートアップの力関係も変えている。これまでならば大金頼みだったスタートアップが、エンジェル投資家の資金や、場合によっては、自分たちの資金で起業することも可能になり、投資へのリターンを最大化することだけを目的とするベンチャー・キャピタリストの言いなりにならずに済むようになったからだ。

 起業のスケールが変化した、この間隙を縫って出てきた興味深い投資およびインキュベーションを行っている会社がある。Yコンビネータである。

 Yコンビネータは2005年にシリアル起業家(何社もスタートアップを興した起業家)であるポール・グラハムと数人のパートナーによって作られた会社で、エンジェル投資も成り立たないようなごく初期のアイデアを会社に育て上げることを目的としている。その仕組みはこうだ。

 Yコンビネータは、まず夏と冬の2回、インキュベーションを希望する個人や会社を募集する。最終的に合格するのは12組ほどだが、毎度400件以上の応募が集まるほどの人気ぶりだ。

 合格した会社は、ボストン(夏)、あるいはシリコンバレー(冬)のYコンビネータに拠点を移し、3ヵ月間にわたって集中した開発を行う。その間、グラハムや彼の人脈ネットワーク上にいるテクノロジー関係者、起業経験者からさまざまなアドバイスを受けながら、テクノロジーを極め、製品やサービスの内容を研ぎすませていく。キーワードは、「人々が求めているものを作れ」だ。

 3ヵ月が終了する直前に、多数のベンチャー・キャピタリストを集めたデモを行い、有望な会社はさらなる資金を受けて次の段階に成長するか、あるいは買収されて早々とエグジットを果たす。

 このYコンビネータはこれまで100社以上をスポンサーしてきたが、その中でもソーシャル・ニュースのRedit(出版社コンデナストが買収)、オンラインのプレゼンテーション・ツールを開発したZenter(グーグルが買収)、ビデオにコメントを付けるツールを開発したOmnisio(グーグルが買収)などの企業がすでに成功を収めている。

 Yコンビネータに集まってくるのは、大学を卒業したばかり、あるいは他のテクノロジー企業で数年働いた経験を持つといった若者ばかり。平均年齢は25歳だ。そうした企業1社に対して、Yコンビネータは5000ドルとさらに創業者一人あたり5000ドルの資金を提供する。スタートアップはたいてい2人か3人で構成されているので、資金は2万ドル(約200万円)を超えることはまずない。この資金とアドバイス提供の見返りとして、Yコンビネータはそのスタートアップの2~10%(平均6%)の未公開株を受け取る。