世の中には嘘と大嘘と俗説が流布している。その中で最もたちが悪いのは、俗説である。もっともらしいので見破るのが難しく、それを信じて行動してもただちに問題が起こるわけではない。だが、その過ちに気づいたときには、取り返しがつかない被害を招いている可能性がある。筆者は、戦略に関しても多くの俗説が流布しているという。その中で最も有害な5つを紹介する。


 この世には嘘があり、大嘘があり、俗説がある。この中で、俗説は最もたちが悪い。

 人は、ソーシャルメディアのエコーチェンバー現象の中で外の世界と隔絶されているのでもない限り、嘘に容易に気づくものだ。

 だが、嘘が大掛かりな場合には事情が異なる。大嘘を耳にしたり目にしたりすると、自分自身を疑って、「私は物事を完全に間違ってとらえていたのかもしれない」と考え始めるのだ。

 だから、政治家や扇動者は大嘘をつく。彼らは、真実を主張しようとするよりも、真実に対する疑念や困惑を植えつけようとする。ひどいことだ。しかし賢い人は、目の前にある証拠をもとに大嘘に抵抗できる。

 俗説は、それとは異なる、もっとわかりにくい罠を仕掛けるため、賢い人ですら引っ掛かる。それはたいてい、一抹の真実を含むもっともらしい話に基づいており、それに従って行動し始めても、ただちに道に迷うことはない。時の経過とともに、過ちを犯したことに初めて気づくが、その頃には誤った選択はやり直せず、被害が生じているのだ。

 俗説は、人間のあらゆる領域での試みに存在している。戦略的思考の分野も、その例外ではない。以下に、私が戦略の研究と企業への助言を行ってきた長いキャリアの中で目にした、最も有害な俗説のうちの5つを示す。