本コラムを掲載している『ダイヤモンド・オンライン』編集者との会話で「化学業界や非鉄金属業界を扱うと『読者受け』がよくないので、本連載では避けたほうがいいですよね」という話をしたことがあった。わが家にあるもので、化学メーカーの名をすぐに思い浮かべられるとしたら、旭化成の「サランラップ」くらいか。

 中間部品にまで遡れば、ほとんどの家電・家庭用品で化学メーカーが関わっているはずだ。しかし、外装だけではわからない。テレビCMなども含め、最終消費者の目に触れないところが「読者受け」のよくないところなのだろう。

 12年6月10日付の日本経済新聞では、三菱ケミカルHDに関する記事が「1面トップ」を飾った。いまでは、ほとんどの人が記憶していないであろう。ブログやツイッターなどで「産業空洞化」を憂える人は多いが、それは縁側での茶飲み話みたいなものであって、「ものづくり」の現場への関心は低い。だから、ニッポンの企業が海外へ出て行こうとしても、思いとどまらせようという話にまでは発展しない。

 ということで今回は、へそ曲がりを全開にして、その化学業界を扱う。読者からのアクセス件数が激減するのを奇貨として、「会計」や「税務」に関する重要な話をこっそり披露してしまおう、というのが、今回の趣旨である。「理解したい者」と「理解する気のない者」との格差拡大が狙いでもある。

親会社株主と少数株主

 最初に「親会社株主」と「少数株主」という概念を説明しておこう。筆者はときどき、多数派株主と少数派株主とに勘違いしてしまいそうになる。例として、三菱ケミカルHDと田辺三菱製薬の関係を次の〔図表 1〕に示す。

化学業界を侮るべからず!三菱ケミカルHD&旭化成にタックス・プランニングの奥義を見る

 三菱ケミカルHDは、田辺三菱製薬の株式を56%保有しているので、親会社である(会社法2条4号、財規8条4項1号)。間違えてならないのは、三菱ケミカルHDは親会社であって、親会社株主ではない点だ。親会社株主とは、〔図表 1〕において、黄色で染められた組織・個人の「すべて」をいう。

 田辺三菱製薬の株主構成は、三菱ケミカルHDの持株比率(56%)を除くと、残り44%。〔図表 1〕では、オレンジ色で染めた部分が該当する。ここに属する組織・個人の「すべて」が、少数株主と呼ばれる。